過去の批評

オペラ《バガヴァット・ギーター〈神の歌〉》

ヒンドゥー教の聖典を題材としたオペラの初演。北沢方邦が台本、西村朗が音楽を書いた。歌手は2人、器楽は打楽器のみ。戦士アルジュナ(加賀ひとみ)と、ヴィシュヌ神の化身であるクリシュナ(松平敬)とが、輪廻からの解脱や魂の不滅について対話する。 西…

アンドレアス・シュタイアー with 佐藤俊介

フォルテピアノのシュタイアーとヴァイオリンの佐藤が、モーツァルト作品で共演。両楽器のためのいくつかのソナタを中心に、ピリオド・アプローチの芯を見せた。 たとえばホ短調ソナタ(K.304)。第一楽章後半の両楽器の掛け合いは、単なる音形の受け渡しに…

鈴木秀美&オーケストラ・リベラ・クラシカ 第32回定期演奏会

古典派音楽の演奏に重点を置くピリオド楽団、オーケストラ・リベラ・クラシカ(OLC)が2013年10月19日、鈴木秀美の指揮の下、32回目となる定期演奏会を行った。会場は上野学園石橋メモリアルホール。前半にはモーツァルトの《ヴァイオリン協奏曲第1番》(独…

ダニエル・ホープ ― 禁じられた音楽

英国のヴァイオリン奏者ダニエル・ホープが、ユダヤ系作曲家の作品を中心に取り上げてリサイタル。ドイツのピアノ奏者セバスティアン・クナウアーが共演した。 シュルホフやダウバーら、反ユダヤ主義の波間に埋もれた音楽家の作品が当夜のテーマ性を色濃く反…

没後50年記念 フランシス・プーランクの夕べ

ピアノ独奏からソナタ、六重奏、オルガン協奏曲を経て宗教声楽曲にいたる大規模な演奏会。出演者たちは当夜、そこに一本の太い「柱」を通した。 和声が明確に落ち着こうとするやはぐらかすプーランクの音楽的身振りを、演奏者は音色の翳りでうまく表現した。…

Duo SORELLE 高田あずみ&高田はるみ デュオ・リサイタル Vol. 4

モダンと古楽、両方の分野で活躍するヴァイオリニストの姉妹が、まさに「姉妹 sorelle〔伊語・複数形〕」の名前でデュオを組む。このたびはバロック期から古典期にかけての五曲を、十八世紀スタイルの楽器と弓とで披露した。弓は同世紀前半のものと世紀末の…

読売日本交響楽団 第158回芸劇マチネーシリーズ ― カンブルランの「春」

2013年9月8日(日)東京芸術劇場 シルヴァン・カンブルラン(指揮), 読売日本交響楽団 楽団の常任指揮者が、夏の終わりに春の風を届ける。演目はドビュッシーの《春のロンド》、シューマンの交響曲第1番《春》、ストラヴィンスキーのバレエ音楽《春の祭典》…

モンテヴェルディ 歌劇《ポッペアの戴冠》― アントネッロ

古楽アンサンブル・アントネッロが送るオペラ・シリーズの第1回公演に足を運んだ。演目はモンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》。演出は彌勒忠史、指揮は濱田芳通が担当した。 古代ローマ、暴君ネローネとその愛人ポッペアとが愛を貫き、ついにはポッペアが皇…

第8回 Hakuju ギター・フェスタ 2013「バロック」

荘村清志と福田進一を旗振り役に、国内外のギタリストが集いギターの魅力を発信する音楽祭。今年は「バロック」をテーマに3日間で4公演が行われた。 第3公演にはバッハ、第4公演にはヴィヴァルディの曲をギター用に編曲した作品が並んだ。第2公演には現代曲…

東京都交響楽団「作曲家の肖像」シリーズVol. 93《チャイコフスキー》

台湾の指揮者リュウ・シャオチャが来日、都響を指揮してチャイコフスキーの特集に臨む。開幕曲は歌劇「エフゲニー・オネーギン」から「ポロネーズ」。コリヤ・ブラッハーを独奏者に迎えた「ヴァイオリン協奏曲」を挟み、後半には「組曲第3番」を置く。「協奏…

パシフィック・ミュージック・フェスティバル・オーケストラ

パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)に集う若き精鋭たちによって組織されたオーケストラが、準・メルクルを指揮者に迎え演奏会を催した。この日はロシアのヴァイオリン奏者ワディム・レーピンとブルッフの「ヴァイオリン協奏曲 第1番」を演奏…

新日本フィルハーモニー交響楽団 第511回定期演奏会

「夜の音楽」の演奏会。大野和士がシャリーノの《夜の肖像》、ツィンマーマンの《ユビュ王の晩餐のための音楽》、ブルックナーの《交響曲第7番》を振る。 夜は暗闇のせいで近くのものさえ見えないが、静けさのおかげで遠くの音が聞こえる。 前二者はタイトル…

ベルキン&プルーデルマッハー デュオ・リサイタル

1940年代生まれのヴァイオリニスト、ボリス・ベルキンとピアニスト、ジョルジュ・プルーデルマッハーが、モーツァルト、ベートーヴェン、ショスタコーヴィチ、シューベルトでベテランの技を聴かせる。 ベルキンは弦にあたる毛の量を変えながら弓を上げ下げす…

メッツマッハー&新日本フィルの《アルプス交響曲》

2013年1月11日(金)すみだトリフォニーホール 新日本フィルハーモニー交響楽団 第503回定期演奏会 今年9月より同団のコンダクター・イン・レジデンスに就任する指揮者、インゴ・メッツマッハーが登場。標題性の高い3曲を並べ、音楽表現の可能性を堂々と問…

ブリュッヘン・プロジェクト2013を振り返る

【第1夜】2013年4月4日(木)すみだトリフォニーホール▼フランス・ブリュッヘン(指揮), 18世紀オーケストラ(管弦楽) フランス・ブリュッヘンが18世紀オーケストラとともに来日。新日本フィルとの共演を含め、四夜に渡りモーツァルトからベートーヴェン…

ユジャ・ワン ピアノ・リサイタル

小娘が小娘離れしたやり方で西洋音楽の精華を見せつけた。幅の広い強弱、音域によって異なる音色、内声を殺さない声部感覚が、プロコフィエフの「第六ソナタ」をハルモニームジーク(管楽合奏)のように響かせ、ラフマニノフの「第二ソナタ」を管弦楽付き協…

日本テレマン協会 第212回定期演奏会

2013年4月26日(金)東京文化会館小 日本テレマン協会 第212回定期演奏会 延原武春(指揮), ウッラ・ブンディース(ヴァイオリン), 出口かよ子(フルート), 高田泰治(チェンバロ), テレマン室内オーケストラ(弦楽合奏) ドイツ古楽の名ヴァイオリニス…

サックバットがつなぐ飲み屋と兵舎と教会堂―カンブルラン&読響の《第九》

2012年12月19日(水)読売日本交響楽団 第555回サントリーホール名曲シリーズ 常任指揮者のシルヴァン・カンブルランが、満を持してベートーヴェンの「交響曲第9番」を振った。聴いたのは全6公演の初日。 「第九」では、第3楽章までの交響曲が第4楽章の…

山田和樹&東京混声合唱団「武満徹の全合唱曲」

2012年11月17日(土)第一生命ホール 東京混声合唱団が山田和樹の指揮の下、武満徹の合唱作品を特集した。遺作とされる「MI・YO・TA」(沼尻竜典編曲)で幕を開けた演奏会は、「芝生」「手づくり諺」「風の馬」といった合唱作品に加え、独唱曲を武満自身が混…

B→C 第138回 日下紗矢子 ヴァイオリン

*日下紗矢子がバッハで成果を挙げつつあるという。ホ長調協奏曲やシャコンヌを含むデビュー盤も発売間近。リサイタルも3月に予定されている。非常に心躍るニュースだ。というのも去年の今頃はこうだったから。激励の意味を込めて過去の批評を掲載する。1…

アーヴィン・アルディッティ《フリーマン・エチュード》を弾く

9月25日(火) 津田ホール 英のヴァイオリン奏者アルディッティが、生誕百年を迎えたケージの難曲「フリーマン・エチュード」全四巻を、百分で弾き切った。 世の中には「堆積する音楽」がある。神道の典礼・御神楽(みかぐら)の冒頭曲「庭火」では、同じ旋律…

宮田まゆみ Thanks to John Cage

9月5日(水) サントリーホール ブルーローズ 20世紀のアメリカを代表する作曲家、ジョン・ケージの生誕100年、没後20年を記念する演奏会。笙の宮田まゆみが、作曲家の晩年の作品「One9」の全曲演奏に挑んだ。 10分強の曲を10篇集めた「One9」は演奏に2時間を…

大井浩明「ピアノで弾くバッハ」第1回・第2回

【第1回】 鍵盤楽器奏者の大井浩明は近年、18世紀以前の楽曲では古典鍵盤楽器を用いることを旨としてきた。このたびはそこから一歩踏み出し、ピアノでバッハに取り組む。この日は《平均律クラヴィーア曲集第1巻》。そこで展開されるのは19世紀的なバッハ演奏…

渡邊順生 第42回サントリー音楽賞受賞記念コンサート

2012年7月17日(火)サントリーホール 古典鍵盤楽器奏者で指揮者の渡邊順生が、合唱のモンテヴェルディ・アンサンブルと管弦楽のザ・バロック・バンドを率いて演奏会を催した。同賞の受賞を記念して披露されたのはモンテヴェルディ「聖母マリアの夕べの祈り…

イム・ドンヒョク ピアノ・リサイタル

2012年5月7日 紀尾井ホール 2005年のショパン国際ピアノコンクールに三位入賞したイム・ドンヒョクが、チャイコフスキー、ショパン、ラフマニノフの作品を並べ、リサイタルを催した。 イムの2つの美点。ひとつは、モノクロームに近い音色ながらその階調がた…

読売日本交響楽団 第515回定期演奏会

2012年5月15日 サントリーホール 下野竜也が贈るシューマン尽くしの一夜。ドイツの作曲家・ライマン(一九三六年〜)の《七つの断章》はシューマンを追悼する作品。そこに、シューマンの《ヴァイオリン協奏曲》と《第二交響曲》を加え、十九世紀の俊英にオマ…

ピーター・クラッツォウ室内楽作品

2011年9月29日 上野学園 石橋メモリアルホール マリンバの小森邦彦が、南アフリカの作曲家クラッツォウの作品を集めて演奏会を催した。独奏曲から、声楽を伴う大規模な曲までをプログラムに並べ、一般には馴染みの薄いこの楽器と作曲家とを華麗な手さばきで…

東京フィルハーモニー交響楽団第811回定期演奏会

2012年2月24日 サントリーホール 創立百周年を迎えた東フィルが、一世紀の歩みを共にしたと言っても過言ではない尾高家を大々的に採り上げ、定期演奏会を行った。すなわち尾高尚忠(父)と惇忠(長男)の曲を忠明(次男)の指揮で披露したのだ。 前半の惇忠…

すみだ平和祈念コンサート2012

2012年3月9日(金)すみだトリフォニーホール 東京大空襲の犠牲者を弔うため1999年に始まった演奏会も6度目の開催を迎えた。今年はそこに東日本大震災で亡くなられた方々の御霊を慰める意味も込める。スピノジ指揮の新日本フィルが栗友会合唱団とともにフォ…

新日本フィルハーモニー交響楽団 第490回定期演奏会

2012年3月3日(土) すみだトリフォニーホール フランスの指揮者、ジャン=クリストフ・スピノジが2年ぶりに新日本フィルの演奏会に登場。モーツァルトの「魔笛」序曲と交響曲「ハフナー」にドヴォルジャークの交響曲「新世界より」を合わせたプログラムで…