ベルキン&プルーデルマッハー デュオ・リサイタル



 1940年代生まれのヴァイオリニスト、ボリス・ベルキンとピアニスト、ジョルジュ・プルーデルマッハーが、モーツァルトベートーヴェンショスタコーヴィチシューベルトでベテランの技を聴かせる。
 ベルキンは弦にあたる毛の量を変えながら弓を上げ下げする。下げ弓の時は細く当ててから、弦に当てる毛の量を徐々に増やす。上げ弓の時はその逆。この運弓が、上下弓とも均質になりがちなモダン演奏に自然な「息づかい」をもたらす。モーツァルトソナタ 変ロ長調》のロンド楽章でジーグ風のリズムが決まるのも、この「息づかい」のおかげ。楽章途中のギアチェンジも効果的に響く。
 こうしたヴァイオリンに呼応してプルーデルマッハーのピアノもまた、弓の力動性を思わせる音。音色はモノクロームだがその分、階調は豊かだ。音の力動性と階調とが和声の「緊張と緩和」に結びつくので、どの場面にも隙がなく、飽きもこない。そんな両者のシューベルト《幻想曲 ハ長調》は、英雄を表す長短短格の韻律を推進力として活かし切る。滋味深い音楽とはこういうものだ。(2013年7月13日 紀尾井ホール

初出:音楽現代 2013年9月号