コラム

ドレスデンのターフェルムジーク

〔架空の対話〕 ハインホーファー「おや、どこからか軽やかなヴァイオリンの響きが聴こえますな」 アルブリーチ 「お気づきですか。あれは選帝侯お気に入りの音楽家たちの演奏です」 ハインホーファー「しかし、演奏をする姿が見えませんが」 アルブリーチ …

嘉永6年(1853年)江戸本所の歌沢連

〔架空の対話〕 笹本彦太郎 「平虎や、今日もお前さんの美声を聴かせておくれ」 平田虎右衛門「ご隠居は本当に端唄が好きでらっしゃいますね。それではひとふし……」 柴田金吉 「みどもはもう少し重々しく歌うほうが好みでござるな」 萩原乙彦 「それももっと…

《ロ短調ミサ曲》私録 XVIII【新訂版】

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第18回。今回はデイヴィッド・スターン指揮、テルツ少年合唱団、オペラ・フオーコ(管弦楽)の公演に足を運んだ(2019年6月23日 於ライプツィヒ・トーマス教会)。 合唱も管…

バッハ先輩とのつきあいかた

ふと周囲を見回すと、たくさんの先輩に囲まれて暮らしていることに気付く。もちろんその中には、尊敬できる先輩、近寄りがたい先輩、そりの合わない先輩などがいるだろう。そんな先輩たちとどのように付き合って行くべきか。音楽家たちはこんなふうに先輩と…

《ロ短調ミサ曲》私録 XVII【新訂版】

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第17回。今回はトン・コープマン指揮、アムステルダム・バロック合唱団&管弦楽団の来日公演に足を運んだ(2018年9月8日 於すみだトリフォニーホール)。 コープマンの解釈…

《ロ短調ミサ曲》私録 XVI【新訂版】

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第16回。今回はライプツィヒ・バッハ音楽祭2018の千秋楽、ゴットホルト・シュヴァルツ指揮、トーマス合唱団&ベルリン古楽アカデミーの演奏会に足を運んだ(2018年6月17日, …

作曲コンクールの意義

日本音楽コンクール作曲部門の審査が簡素化される。それに対して日本現代音楽協会会長の近藤譲がコンクール当局に公開書簡を送った。近藤が強調する"作曲コンクールの意義"について首肯する。かつて当方も同じようなことを強調したことがあると思い至った。…

《ロ短調ミサ曲》私録 XV【新訂版】

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第15回。今回はライプツィヒ・バッハ音楽祭2017の千秋楽、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮のドレスデン室内合唱団&ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏会に足を運んだ(2017…

レッスン室の言葉

「バッハは1日に6時間も稽古を付けてくれます」(弟子クロイターの言葉。バッハのレッスンについて) バッハの鍵盤レッスンは打鍵法の訓練から始まる。鍵盤のたたき方だけで半年以上を費やした。それを終えた生徒は《インベンションとシンフォニア》で基礎…

日本の古楽オーケストラ

いったん途絶えた伝統を探り、それを今の音楽シーンにつなげる。古楽演奏の持つこうした側面は、邦人音楽家にとってうってつけの課題だった。演奏習慣の研究にしろ奏法の実践にしろ、勤勉さがものを言う。この半世紀の間、日本の土壌で培われた「古楽の芽」…

《ロ短調ミサ曲》私録 XIV

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第14回。今回はライプツィヒ・バッハ音楽祭2016の千秋楽、ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサンの演奏会に足を運んだ(2016年6月19日, ライプツィヒ・トーマス教…

ゲヴァントハウス管弦楽団の楽長職 -- ブロムシュテットとシャイー

リッカルド・シャイーは2005年、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の楽長に就任した。前任者はヘルベルト・ブロムシュテット。2人の指揮者はさまざまな面で好対照をなしている。その比較から、この楽団の「次の楽長」の姿もおぼろげながら見えてくるか…

《ロ短調ミサ曲》私録 XIII

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第13回。今回は鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏会に足を運んだ(2015年7月28日, 東京・サントリーホール)。 朝日新聞に批評を書いたので、公演内容について…

《ロ短調ミサ曲》私録 XII

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第12回。今回はトレヴァー・ピノック指揮、紀尾井バッハコーア&紀尾井シンフォニエッタ東京の演奏会に足を運んだ(2015年7月10日, 東京・紀尾井ホール)。 ピノックの指揮…

《ロ短調ミサ曲》私録 XI

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第11回。今回の旅ではハンス=クリストフ・ラーデマン指揮、ゲッヒンガー・カントライ・シュトゥットガルト、バッハ・コレギウム・シュトゥットガルト他の演奏会に足を運ん…

《ロ短調ミサ曲》私録 X

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第10回。今回の旅ではマルク・ミンコフスキ&レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル=グルノーブルの演奏会に足を運んだ(2014年9月3日 ケーテン・ヤコプ教会)。 10人の声楽ア…

ツィンマーマン《わたしは改めて、太陽の下に行われる虐げのすべてを見た》の解釈メモ

「わたしは改めて、太陽の下に行われる虐げのすべてを見た。見よ、虐げられる人の涙を。彼らを慰めるものはない。見よ。虐げる者の手にある力を。彼らを慰める者はいない。既に死んだ人を、幸いだと言おう。更に生きて行かなければならない人よりは幸いだ。…

インゼル文庫の海を泳ぎ、島々をめぐる(2)

印刷出版の街・ライプツィヒが生んだ、キラリと光る書籍ブランド「インゼル文庫 Insel-bücherei」。1912年に刊行が始まり、ふたつの世界大戦、二次大戦後の混乱期、分断国家として迎えた冷戦期、東西ドイツの統一と「統一実験」の25年を経て現在、出版番号13…

《ロ短調ミサ曲》私録 IX

当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第9回。今回の旅ではトン・コープマン指揮、アムステルダム・バロック・オーケストラ&同合唱団の演奏会に足を運んだ(2014年6月22日 ライプツィヒ・トーマス教会)。 コー…

2013年演奏会回顧〔海外編〕

【第1位】ライプツィヒ・バッハ音楽祭 #68 ジョン・エリオット・ガーディナー, モンテヴェルディ合唱団&イングリッシュ・バロック・ソロイスツ▼バッハ《ヨハネ受難曲》▼6月20日 ライプツィヒ・トーマス教会▼詳細記事 【第2位】テューリンゲン・バッハ週間 …

2013年演奏会回顧〔国内編〕

【第1位】ブリュッヘン・プロジェクト 第1〜3夜 フランス・ブリュッヘン&18世紀オーケストラ▼ユリアンナ・アヴデーエワ(フォルテピアノ)▼ベートーヴェン《英雄交響曲》, ショパン《クラヴィーア協奏曲第1・2番》他▼4月4・5・6日 すみだトリフォニーホー…

寓話「般若心経」

「ありゃあ『生臭坊主の朝のお勤め』だなあ」 「あれ?オオヤさん、ご法事?音楽会に行ったんじゃなかったのですかい?」 「はっつぁん、なんであたしの行き先を知ってるのさ?いま流行のストーカーかい?まあ店子に追いかけられるほど慕われるオオヤっての…

寓話「トシヒビキ」

都市響(としひびき)は小兵力士だ。角界にはどの時代にも曲者がいた。劣ったところを強みに変え、体格のよい相手を翻弄する。都市響に求められる力士像も同様だ。 初台場所、この日の取り組みは二番。モーツァルト《大ト短調》、ベルリオーズ《幻想》の両交…

距離が音楽の形を決める ― カンブルランの空間デザイン

*2014年1月14日、サントリーホールで読売日本交響楽団第533回定期演奏会がありました。このコンサートを推薦する文章を読響の広報用に書きましたので、それをご覧いただこうと思います。この文章はある種の「予想」にあたるわけですが、はてさて演奏会は当…

「記念年を言祝ぐ」― トマゾ・アントニオ・ヴィタリ

「現代古楽の基礎知識」を名乗っているので、お叱りを受けぬよう古楽系の記事もきちんと投稿。今年、記念年を迎えた3人の音楽家「コレッリ、ヴィタリ、ダウランド」を、6回に分けて紹介していきます。もちろん年内には終える予定(笑)今回はその第4回。…

《ロ短調ミサ曲》私録 VIII

当方がこれまで実演に接した《ロ短調》の番付を発表するコーナーの第8回。今回の楽旅ではビラー指揮トーマス合唱団&フライブルク・バロック・オーケストラの《ロ短調》の演奏会に足を運びました。 例によってガーディナーの圧倒的第1位は揺るがず。2010年…

インゼル文庫の海を泳ぎ、島々をめぐる(1)

ライプツィヒは印刷出版で栄えた街。17世紀来、この街では貴重な書物や雑誌、楽譜がたくさん刷られた。そんな歴史に、20世紀に入って新たな魅力を付け加えたのが「インゼル文庫 Insel-bücherei」だ。1912年にこの街で産声をあげたインゼル文庫は、ふたつの世…

メディアのメディアは何を語る? ― ドイツ国立図書館ライプツィヒ館

ライプツィヒは「教会と音楽の街」を17世紀以来、自任しているけれど、同じ時期からこの街を特徴付けてきたものに印刷出版業がある。たくさんの書籍出版はもちろんのこと、その中には楽譜も含まれていて、たとえば18世紀の印刷楽譜の出版地はここライプツィ…

ため息を誘うヴァイオリニスト -- 浅井咲乃さん

「弾いていないように見える」-- 学生時代の浅井咲乃さんを評した言葉。どちらかといえば批判めいた評価に違いない。でも、いまの彼女にとっては最高のほめ言葉のひとつだろう。肘をぐいと上げた右腕で弓を持ち、肩と顎とで楽器を強く挟み込み、時に悶えるよ…

「不安感」をスパイスに ― 高田泰治さん(古典鍵盤楽器奏者)

■高田泰治 チェンバロ・リサイタル 2011年5月8日(日) ボーゼハウス「夏の間」 主催:バッハ・アルヒーフ・ライプツィヒ■プログラム 《6つの小プレリュード》BWV933-938 《パルティータ第2番 ハ短調》BWV826 《4つのデュエット》BWV802-805 《イギリス組…