インゼル文庫の海を泳ぎ、島々をめぐる(1)

 ライプツィヒは印刷出版で栄えた街。17世紀来、この街では貴重な書物や雑誌、楽譜がたくさん刷られた。そんな歴史に、20世紀に入って新たな魅力を付け加えたのが「インゼル文庫 Insel-bücherei」だ。1912年にこの街で産声をあげたインゼル文庫は、ふたつの世界大戦、二次大戦後の混乱期、分断国家として迎えた冷戦期、東西ドイツの統一と「統一実験」の20年を経て現在、出版番号1380(1800巻以上)を擁する一大シリーズとなった。
 特徴的なのはその体裁。工夫を凝らした文様の表紙、厚手の紙、ひげ文字(Fraktur)に美しい図版。それらが 185x120mm のハードカヴァーの装丁に納まっている。手にとりやすく持ち出しやすい大きさのインゼル文庫だけれど、書棚に並べると大きさの割にしっかりとした存在感を放つ。
 ほんの数冊でもそうなのに、それが壁一面上から下まで並んでいたら、その眺めはどれほどか……。そんな夢想を実際に見せてくれる古書店ライプツィヒにある。ニコライ教会のほど近くに店を構える「Bücherinsel」(本の島の意。右写真)だ。名前のとおり「Insel-bücherei」の専門店。その他の古書もたくさん所蔵しているが、やはりインゼル文庫の書棚は圧巻だ。全ての番号の文庫がそろう上、どの番号にも出版時期の違う複数冊が用意されている。ここに入って早々に退散するような本好きがいるとはとても思えない。天井近くに並ぶ1冊を手にとるため何度、脚立の上り下りをしたことか。
 そんな上下運動の成果を今回は披露。じっくり選んだ11点だ。


Nr.100『野鳥とその巣の小図鑑 Das kleine Buch der Vögel und Nester』旧版初版, 1934年


Nr.221『ホルバイン 死の舞踏 Bilder des Todes』第5版, 1950年


Nr.250『デューラー 小受難譚 Die kleine Passion』第10版, 1953年


Nr.269『薬草の小図鑑 Das kleine Käuterbuch』旧版初版, 1936年


Nr.316『木の小図鑑 Das kleine Baumbuch』第2版, 1940年


Nr.347『ザクセンシュピーゲル Der Sachsenspiegel』第3版, 1933年


Nr.503『きのこの小図鑑 Das kleine Pilzbuch』旧版初版, 1937年


Nr.550『デューラー マクシミリアンの祈祷書 Aus dem Gebetbuch Kaiser Maximilians』初版, 1939年


Nr.755『5世紀以降のドイツのトランプ Deutsche Spielkarten』第2版, 1964年


Nr.775『バンベルクの黙示録 Die Bamberger Apokalypse』初版(ライプツィヒ), 1964年


Nr.920『東独の民衆版画 Graphikspiegel』初版, 1969年



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