過去の批評

特集 カンブルラン(過去の批評 その他)

読売日本交響楽団第9代常任指揮者 シルヴァン・カンブルランの任期最後の演奏会を聴いた(2019年3月24日〔日〕)。思えば、雑誌にいくたびか批評を寄稿したのをはじめ、さまざまな機会をとらえてカンブルランの演奏を文章にした。つねに幸せな試みだった。そ…

プレガルディエン&ゲース

クリストフ・プレガルディエン&ミヒャエル・ゲース◇2018年11月9日(金)於 トッパンホール テノールのプレガルディエンがピアノのゲースを伴ってリサイタル。シューマンの連作歌曲の世界を描き出す。 「5つの歌曲」の第3曲「兵士」は、主人公による情景描写…

読響アンサンブル・シリーズ第18回

2018年4月9日(月)よみうり大手町ホール 読売日本交響楽団 アンサンブル・シリーズ第18回 読響コンサートマスターの長原幸太と同団の7人の弦楽器奏者が、メンデルズゾーンとエネスクの両「弦楽八重奏曲」を披露した。 読響の個性は、上布を思わせる響きにあ…

都響第855回定期演奏会B

東京都交響楽団第855回定期演奏会Bシリーズ◇2018年5月22日 於サントリーホール 指揮者の下野竜也が、ふたりのユダヤ系創作家の作家性を前面に押し出したプログラムをおくる。 ひとりはメンデルスゾーン。この作曲家の交響曲《スコットランド》は韻律のアート…

読売日本交響楽団 第608回名曲シリーズ

シルヴァン・カンブルランの指揮で読響が、シリーズの名にふさわしい演奏会。とはいえこのコンビが、単なる名曲コンサートをして事足れりとするはずもない。 ブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」はイザベレ・ファウストの独奏。彼女はつねに、ヴァイオリン演…

メシアン《アッシジの聖フランチェスコ》(カンブルラン&読響 )

読売日本交響楽団 第606回名曲シリーズ▼2017年11月26日(日)サントリーホール 楽団の創立55周年と作曲家の没後25周年とを記念して読響が、シルヴァン・カンブルランの指揮の下、メシアンの歌劇《アッシジの聖フランチェスコ》を演奏会形式で上演した。全3幕…

ハインツ・ホリガー《スカルダネッリ・ツィクルス》

2017年5月25日(木)▼東京オペラシティ コンサートホール▼コンポージアム2017 ハインツ・ホリガーの音楽 ー《スカルダネッリ・ツィクルス》 ホリガーの「スカルダネッリ・ツィクルス」(1991年完成)の日本初演。スカルダネッリとは19世紀ドイツの詩人ヘルダ…

東京交響楽団 第684回定期演奏会

秋山和慶の指揮で東響が、「フランスのエクリチュール」のさまざまな姿を紹介する。 メシアンの交響的瞑想「忘れられた捧げ物」は、作曲家22歳のときの若書きだが、リズムと管弦楽法とはすでに精緻。こうした総譜を前にすると、音符を正確に音にするのに長け…

新日本フィルハーモニー交響楽団 第568回定期演奏会

冒頭、蓄音機からシャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」が流れる。武満徹を音楽家の道へと誘ったこの曲の後、この作曲家の歩みをたどる演目が続く。指揮は井上道義。 歌(大竹しのぶ)などを交えつつ進むプログラムは、ほぼ年代順に武満の創作期をなぞる。その…

ブルネロ&ストット デュオ・リサイタル

イタリアのチェロ奏者マリオ・ブルネロとイギリスのピアノ奏者キャサリン・ストットがデュオを組み、ベテラン音楽家の妙技を聴かせる。 冒頭のシューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」で、チェロとピアノの両者が相補いながら、主従なく音楽を作っているこ…

マレイ・ペライア ピアノリサイタル

バッハや古典派の鍵盤楽曲に定評があるとされるピアニストのリサイタル。前半にモーツァルトの「ピアノ・ソナタ第8番」とブラームスの小品をいくつか、後半にベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」を置く保守本流のプログラムで、40年に及ぶキャリアの現…

読売日本交響楽団 第561回定期演奏会

フランクフルト歌劇場音楽総監督のクリスティアン・ヴァイグレが、読響の定期演奏会に初めて登場。得意のR・シュトラウスで演目を固め、日本の聴衆に指揮の実力を見せつけた。 ヴァイグレはシュトラウスを、極めて細い糸で織り上げようとする。管弦楽、とく…

読売日本交響楽団 第560回定期演奏会

独の若手指揮者コルネリウス・マイスターが読響を振って、ハイドンの交響曲第6番「朝」とマーラーの同第6番「悲劇的」とを披露した。マイスターは2017年度から読響の首席客演指揮者に就任する。当夜はいわば内定式。指揮者は両交響曲の番号のつながりだけで…

新日本フィルハーモ二ー交響楽団 第560回定期演奏会

ダニエル・ハーディングがマーラーの「交響曲第3番」を披露した。2010年から楽団の「ミュージック・パートナー」を務めたハーディングの、任期最後の公演。演奏は指揮者と楽団、両者の醸成してきた音楽的成果を振り返る、地に足のついたものだった。 たとえ…

ベルリン古楽アカデミー「ヴェネツィアの休日 ― 協奏曲とシンフォニア」

古楽演奏の先頭を走り続ける楽団・ベルリン古楽アカデミーの日本公演。第1夜ではバッハ親子の作品を、第2夜ではヴェネツィアの管弦楽曲を紹介した。興味深いことに、第2夜のほうにより強く、バッハの香りを感じる結果となった。 1713年、バッハは雇い主の命…

上岡敏之&読売日本交響楽団 第182回東京芸術劇場マチネーシリーズ

ドイツ・ヴッパータール市立歌劇場の音楽総監督で、日本でも活躍する上岡敏之の指揮の下、読響がベートーヴェンの「第九交響曲」を披露した。合唱は新国立劇場合唱団。 年中行事に終わらせない、とする指揮者の意気込みが演奏から伝わってくる。たとえば冒頭…

B→C 第178回 -- 佐藤卓史(ピアノ)

ウィーンで研鑽を積むピアニスト、佐藤卓史の演奏を聴く。このシリーズの習い通り、バロック期の作品から21世紀の新作までが演目に並ぶ。佐藤は今回、ダンスにまつわる曲を集めてプログラムを構成した。 バッハであれば「フランス組曲第6番」。弦楽器の弓の…

トレヴァー・ピノックの「ロ短調ミサ」

紀尾井シンフォニエッタ東京と同ホールの創立二十周年を記念し、特別演奏会が催された。古楽の名匠ピノックが指揮台に登り、バッハの大作「ロ短調ミサ曲」を披露した。 典礼文の舞台化に物足りなさが残る。磔刑か復活か感謝か、どこに焦点が定まっているのか…

プレトニョフ&ロシア・ナショナル管 調布音楽祭特別公演

2015年6月27日(土)▼調布市グリーンホール大ホール▼ミハイル・プレトニョフ(指揮・ピアノ), ロシア・ナショナル管弦楽団 プレトニョフが自ら創設したオーケストラを引き連れ来日、調布音楽祭でモーツァルトとチャイコフスキーを披露した。前者の「協奏曲…

東京交響楽団第628回定期演奏会

音楽監督ジョナサン・ノットの指揮で、ベルクの「抒情組曲」(弦楽合奏版)とワーグナーの「パルジファル」(抜粋版)とが披露された。 「抒情組曲」には対位法的な部分が多いが、ノットは内声を厚く響かせ、埋もれがちな声部の存在感を保つ。終楽章「情熱の…

キット・アームストロング ピアノリサイタル

前半にバッハの「コラール前奏曲」数曲、自作の「BACH主題による変奏曲」、バッハの「パルティータ第6番」を、中入り後はリストの「超絶技巧練習曲集第10番」などを経て、バッハ(リスト編)の「幻想曲とフーガ」を弾くプログラム。 緊張と緩和の彫り込みや…

東京フィルハーモニー交響楽団 第857回定期演奏会

阪哲朗の指揮でベートーヴェンの「田園交響曲」を聴く。前半は仲道郁代の独奏によるシューマンの「ピアノ協奏曲」。この日の白眉はこのイ短調協奏曲だった。 ロマン主義の雰囲気を保ちつつ、古典的な佇まいの演奏を聴かせる仲道。たとえば、装飾音を強拍にき…

マーラー《千人の交響曲》ー ノット&東響

ミューザ川崎シンフォニーホール開館10周年記念コンサート▼2014年12月7日(日) ジョナサン・ノット率いる東京交響楽団が、拠点とするホールの10周年に大輪の花を添える。演目はマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」。この日400人を超える音楽家が、ステー…

ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノ・リサイタル

アヴデーエワがショパンコンクール後4年間の成果を問う。 フルートやオーボエ、ファゴットやホルン、チェロやコントラバスの音色が、ピアノの各音域から聴こえる。音色の変化は緊張と緩和の交代、強弱による迫力作りと結びつけられる。考え抜かれた句読点や…

ジャン・フィリップ・ラモー オペラ《プラテ》

寺神戸亮の指揮する古楽楽団レ・ボレアードが、没後250年を迎えた作曲家の叙情喜劇を取り上げた。ローマの神ジュピテルが、異形の妖精プラテを騙して偽の結婚式を挙げ、妻ジュノンに意趣返しをするたわいのない筋書き。管弦楽は舞台奥で演奏、歌手はその前で…

新日本フィルハーモニー交響楽団第525回定期演奏会 ― ハーディングのブラームス

ハーディングがブラームスの交響曲・協奏曲を振る特集の第一夜。交響曲の第二番と第三番とが披露された。前半の第二番冒頭に不思議な手触り。旋律を基本拍子単位に分節して、長短(タータ)の韻律を強調。それが変拍子ヘミオラのギアチェンジをくっきりと縁…

ミクローシュ・ペレーニ チェロリサイタル

ハンガリーを代表するチェロ奏者が、ピアニストの息子ベンジャミンを連れて来日。2夜に渡るリサイタルを催した。その第1日を聴く。前半にバッハ、ブリテンの無伴奏曲、後半にはリスト、ヤナーチェク、ブラームスと伴奏の付く曲が並んだ。 バッハの第3組曲、…

東京都交響楽団第766回定期演奏会 ― インバルのマーラー《第9交響曲》

エリアフ・インバルが指揮する新マーラー・ツィクルスの最終公演。プログラムは交響曲第9番だ。第1楽章から「サウンドよりも子音、旋律よりも語り」の姿勢が色濃くにじむ。強弱はもちろんある。インバルはそこに、管弦バランスの変化に伴う音色の移り変わり…

インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブル〈ICE〉

同時代音楽を専門とするニューヨークのアンサンブルが、ナタン・デイヴィス、ポーリン・オリヴェロス、ジョン・ゾーン、そして藤倉大の作品を紹介。後半の始めには、福島県相馬市の作曲教室に参加した子供たちの曲が披露された。 人間の耳は、ロングトーンの…

バッハ《ヨハネ受難曲》BWV245 ― 岡山バッハカンタータ協会

岡山バッハカンタータ協会の合唱(合唱指揮・佐々木正利)、岡山フィルの管弦楽、ハンスイェルク・シェレンベルガーの指揮による《ヨハネ受難曲》。演奏は第22曲のコラール「あなたが捕われたことで」に重きを置く。その前後のシンメトリーな場面構成を劇的…