寓話「トシヒビキ」



 都市響(としひびき)は小兵力士だ。角界にはどの時代にも曲者がいた。劣ったところを強みに変え、体格のよい相手を翻弄する。都市響に求められる力士像も同様だ。
 初台場所、この日の取り組みは二番。モーツァルト《大ト短調》、ベルリオーズ《幻想》の両交響曲である。ときに横綱にも土を付ける曲者ならば、こう相撲を取るだろう。《大ト短調》の「おしゃべりな楽想」を活かし切るべく、一見、息の長そうな旋律にも手刀さながらに鋏を入れ、思わぬ方向から間の手を差し出すモーツァルトの茶目っ気を描く。一方《幻想》では、ハイドンベートーヴェン来の古典派書法に照準を合わせることで、ベルリオーズの尋常ならざる目つきをよりはっきりと浮き彫りにする。
 この日の都市響はいずれの取り口も採用しない。ひたすらに「横綱相撲」だ。横綱の技量や力強さを持たぬものが横綱相撲を取る姿は、滑稽を通り越して退屈。「レガートのモーツァルト」や「常に躁のベルリオーズ」は都市響の取るべき相撲ではない。


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