レッスン室の言葉



「バッハは1日に6時間も稽古を付けてくれます」(弟子クロイターの言葉。バッハのレッスンについて)
バッハの鍵盤レッスンは打鍵法の訓練から始まる。鍵盤のたたき方だけで半年以上を費やした。それを終えた生徒は《インベンションとシンフォニア》で基礎を身につけ《平均律クラヴィーア曲集》でフーガの訓練へ。レッスンの仕上げは通奏低音の演奏法を身につけること。低音旋律を左手で弾き、右手でそれに適した和音などを即興で演奏する。弟子のゲルバーに行った授業では、アルビノーニの《ヴァイオリン・ソナタ》が教材に選ばれているので、実際にバッハがヴァイオリンを弾きながらゲルバー通奏低音を指導していたかも知れない。


「数時間がほんの数分に思える」(弟子ゲルバーの言葉。バッハの模範演奏を聴いて)
ときにはバッハの気がレッスンに向かないことも。そんなときはレッスン代わりに数時間も鍵盤楽器を演奏してくれた。バッハのリサイタルが目の前で行われるわけで、弟子にとっては贅沢な時間だった。


「彼女の顔は悪魔の顔のお手本だ」モーツァルトの言葉。アウエルンハンマーを評して)
モーツァルト鍵盤楽器を習う生徒は大勢いたが、なかでも才能に恵まれていたのがヨゼファ・アウエルンハンマー。ヨゼファはモーツァルトに恋をしていたが、モーツァルトは見向きもせず、つれない態度。


「左手はオーケストラの指揮者」ショパンの言葉。レッスンに際して)
ショパンは自在にテンポを揺り動かしたというが、実は左手は正確なテンポで、右手の表現がとても自由だった。左手はあくまでも正確に。そのことをショパンは、オーケストラの指揮者にたとえて弟子たちに教えていた。


「宿題を暗記して来た子どものつもり?」ショパンの言葉。弟子の態度にいらついて)
楽譜を持たずにレッスンに来た生徒。ショパンが楽譜はどうしたかたずねると、暗譜しているから持ってこなかったとの答え。それに対してショパンが放った一撃。いつも物静かなショパンも音楽に関してはやはり厳しい。


「テクニックは精神によって培われる」(リストの言葉。ピアノの訓練に関して)
超絶技巧ピアニストの代表選手と言えばリスト。ところが彼は弟子にテクニックの指導をしなかった。弟子の身体は自分の身体とは違う。伝えられるのはテクニックの奥に潜む本当の意義だけ、という信念から。


「激しく燃える詩人は恐ろしい」シューマンの言葉。師との法廷闘争を前に)
シューマンは18歳の時、ピアノ教師ヴィークに弟子入りした。たちまちその家の娘クララと恋に落ちる。ところが師匠には交際を反対され、泥沼の裁判沙汰に。師匠と弟子の絆も、恋愛の炎の前には灰となるしかない。


【CD】
▼バッハ《平均律クラヴィーア曲集》第2巻 BWV870-893▼エフゲニー・コロリオフ(ピアノ)
▼バッハ《ゴルトベルク変奏曲》BWV988▼高田泰治(チェンバロ)
▼モーツァルト《クラヴィーア・ソナタ イ長調》K.331ほか▼アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)
▼ショパン《24の前奏曲》作品28 ほか▼ウラジーミル・ソフロニツキー(ピアノ)
▼リスト《超絶技巧練習曲集》▼ジョルジ・シフラ(ピアノ)
▼シューマン《ダヴィット同盟舞曲集》作品6 ほか▼アンドラーシュ・シフ(ピアノ)




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