《ロ短調ミサ曲》私録 IX


 当方がこれまで実演に接したバッハ《ロ短調ミサ》BWV232の番付を発表するコーナーの第9回。今回の旅ではトン・コープマン指揮、アムステルダムバロック・オーケストラ&同合唱団の演奏会に足を運んだ(2014年6月22日 ライプツィヒ・トーマス教会)。
 コープマン、素晴らしかった。上声部は滑らかに、流れるように歌うけれど、通奏低音は一貫して子音を立たせ、随所に句読点を打っていく。しかし、横方向への推進力を保つ上声と、きちんと鋏の入ったバス旋律とはトレードオフにならない。そこはバランスの問題。カスガイの役目をする内声を厚く響かせることで両者をしっかりとホールドする。そうすると音楽は、「滑舌がよく、しかも流れるような『語り』」として御堂を満たしていく。《クレド》の「唯一の洗礼を信ず Confiteor」から「そして待ち望む Et expecto」のアダージョを経てヴィヴァーチェへと流れ込むところは、そんな特性がぴたりとハマった素晴らしい局面で、とても感心したし感動した。
 とは言え、2010年のガーディナーの圧倒的第1位は揺るがず。ばったばったと強敵をなぎ倒していくガーディナー。個人的にはあれはレジェンドだなあ。そうそう、これは、あくまで「私録」。ランキング内容についてのクレームはご容赦を(笑)。

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第1位 ガーディナー, モンテヴェルディ合唱団&イングリッシュ・バロック・ソロイスツ(ライプツィヒ・トーマス教会, 2010年)
第2位 ユンクヘーネル&カントゥス・ケルン(アルンシュタット・バッハ教会, 2011年)
第3位 ヘンゲルブロック, バルタザールノイマン合唱団&同アンサンブル(同トーマス教会, 2009年)
第4位 ハリー・ビケット指揮, イングリッシュ・コンサート(同トーマス教会, 2012年)
NEW! 第5位 トン・コープマン指揮, アムステルダムバロック・オーケストラ&同合唱団(同トーマス教会, 2014年)
第6位 フェルトホーヴェン指揮, オランダ・バッハ協会(東京オペラシティ, 2011年)
第7位 ヤコプス, バルタザール・ノイマン合唱団&ベルリン古楽アカデミー(同トーマス教会, 2011年)
第8位 アーノンクール, シェーンベルク合唱団&コンツェントゥス・ムジクス・ヴィーン(サントリーホール, 2010年)
第9位 ブロムシュテット, ゲヴァントハウス合唱団&同管弦楽団(同トーマス教会, 2005年)
第10位 鈴木雅明指揮, バッハ・コレギウム・ジャパンバーデン・バーデン祝祭劇場, 2012年)
第11位 エリクソン, エリクソン室内合唱団&ドロットニングホルム・バロックオーケストラ(同トーマス教会, 2004年)
第12位 へレヴェッへ&コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(ケーテン・ヤコブ教会, 2010年)
第13位 ブリュッヘン, 栗友会合唱団&新日本フィルすみだトリフォニーホール, 2011年)
第14位 ノリントン, RIAS室内合唱団&ブレーメン・ドイツ室内管弦楽団(同トーマス教会, 2008年)
第15位 へレヴェッへ&コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(同トーマス教会, 2003年)
第16位 ビラー, トーマス合唱団&ストラヴァガンツァ・ケルン(同トーマス教会, 2006年)
第17位 延原武春指揮, テレマン室内合唱団&テレマン室内オーケストラ(いずみホール, 2011年)
第18位 シュミット=ガーデン, テルツ少年合唱団&コンツェルトケルン(同トーマス教会, 2007年)
第19位 ビラー, トーマス合唱団&フライブルクバロック・オーケストラ(同トーマス教会, 2013年)

問題外 コルボ, ローザンヌ声楽アンサンブル&同器楽アンサンブル(東京国際フォーラム, 2009年)←ここに並べるのがはばかられるほどひどく、内実のない演奏。コルボの「バッハに対する無理解/不勉強」が白日の下にさらされた。どういうわけか日本でだけもてはやされている。アンスバッハ、ケーテン、ライプツィヒの主要なバッハ音楽祭に彼らが呼ばれないことをもう少し冷静に見つめてはいかがか。
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【今後の《ロ短調》】「ケーテン・バッハ音楽祭」マルク・ミンコフスキ(指揮), レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル=グルノーブル(独唱, 合唱, 管弦楽)〔2014年9月3日(水)ケーテン・ヤコブ教会〕


写真:トン・コープマンソリストたち(2014年6月22日 ライプツィヒ・トーマス教会)


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