すみだ平和祈念コンサート2012



2012年3月9日(金)すみだトリフォニーホール

 東京大空襲の犠牲者を弔うため1999年に始まった演奏会も6度目の開催を迎えた。今年はそこに東日本大震災で亡くなられた方々の御霊を慰める意味も込める。スピノジ指揮の新日本フィルが栗友会合唱団とともにフォーレの《レクイエム》を捧げたが、祈り心が最高潮に達したのはむしろ、前半のショスタコーヴィチ《室内交響曲》とバーバー《弦楽のためのアダージョ》において。二曲とも弦楽合奏のための作品である。
 弦楽合奏というのはいわばモノクロのメディアであって、そこに鮮やかな色彩を求めることはできない。しかし紅を一滴垂らした黒と、藍を一滴垂らした黒とでは色合いが異なる。そんな違いをスピノジは、弓を弦に押し付ける圧力と弓を運ぶ速さとで描き分けた。それによって実現した階調はとても豊か。曲の趨勢を決める細部、そこへの細やかな心がけこそ死者への敬意そのものだ。大きな悲劇を前にして音楽家に出来ることというのはつまり、そういうことである。

初出:音楽現代 2012年5月号