東京フィルハーモニー交響楽団第811回定期演奏会



2012年2月24日 サントリーホール

 創立百周年を迎えた東フィルが、一世紀の歩みを共にしたと言っても過言ではない尾高家を大々的に採り上げ、定期演奏会を行った。すなわち尾高尚忠(父)と惇忠(長男)の曲を忠明(次男)の指揮で披露したのだ。
 前半の惇忠《オーケストラの肖像》と尚忠《フルート小協奏曲》(独奏・高木綾子)はどちらも、二度音程とその集合である音階とを主な素材として組み立てられた佳曲。後半のチャイコフスキー交響曲第五番》もまた、順次進行と音階とを組み合わせた主題を用いている。第五交響曲は4つの楽章すべてをこの主題で結ぶ循環形式。第一楽章で短調だった主題は第四楽章で長調へと転じ、堂々たる凱旋行進曲へと姿を変える。
 すなわち当夜の演奏会は、尾高家を象徴する「二度と音階の主題」が、最後には勝利の凱歌となる、という構造を採る。こうして日本楽壇における尾高家の覇権が、次の百年に向けて高らかに宣言されたのである。

初出:音楽現代 2012年5月号