ピーター・クラッツォウ室内楽作品



2011年9月29日 上野学園 石橋メモリアルホール

 マリンバの小森邦彦が、南アフリカの作曲家クラッツォウの作品を集めて演奏会を催した。独奏曲から、声楽を伴う大規模な曲までをプログラムに並べ、一般には馴染みの薄いこの楽器と作曲家とを華麗な手さばきで紹介した。
 冒頭の「大地と火の踊り」では、両者の対立が音域の高低やテンポの緩急によって描かれる。それらが広音域のユニゾンから最低音に収束することで、両者の合一が表現される。重要なのは、マリンバが音楽のこうした物語性を充分に表せること、そして小森が楽器の底力を見事に引きだしていることである。
 最後に披露された「光に向かって」はマリンバにオルガンと二重合唱を加えた大がかりな一曲。朗唱風のマリンバが合唱部分をつないでいく構成は、バロック期の受難曲にも似た運びだ。とすればマリンバはさしずめ福音史家=狂言回しの役割を担う。その点コントロールの行き届いた小森の演奏は、ニュアンスが命の狂言回しとして高水準。こうして当夜、聴衆はマリンバの「無言の語り」を聴いたのである。

初出:モーストリークラシック2011年12月号