読売日本交響楽団 第515回定期演奏会



2012年5月15日 サントリーホール

 下野竜也が贈るシューマン尽くしの一夜。ドイツの作曲家・ライマン(一九三六年〜)の《七つの断章》はシューマンを追悼する作品。そこに、シューマンの《ヴァイオリン協奏曲》と《第二交響曲》を加え、十九世紀の俊英にオマージュを捧げた。
 《七つの断章》はシューマンの遺作の主題を引用する。その主題を切り刻んで提示し、統合し、また切り刻んでいく。そして最後にピッコロが主題の反行形を吹いて締める。そこからはライマン風の主題労作のスタイルがうかがえる。
 協奏曲独奏の三浦文彰は高い技術と美音を持ちながら、和声の緊張と緩和には頓着しない。ずっと緊張していると言うよりもずっと緩和している。そんな微温的演奏を払拭したのが《第二交響曲》だ。管楽器に「下ごしらえ」を任せるシューマンのスコアを、精緻なバランス感覚で現実化する下野。ダイナミクスに頼りきらず、和声進行で盛り上がりを形作れる手腕は今、日本人音楽家に最も求められていることだ。

初出:音楽現代 2012年7月号