新日本フィルハーモニー交響楽団 第490回定期演奏会



2012年3月3日(土) すみだトリフォニーホール

 フランスの指揮者、ジャン=クリストフ・スピノジが2年ぶりに新日本フィルの演奏会に登場。モーツァルトの「魔笛」序曲と交響曲「ハフナー」にドヴォルジャーク交響曲新世界より」を合わせたプログラムで「楽しい音楽の時間」を現出させた。
 重要なのは、スピノジの踊るような指揮姿が楽しさの直接的な源ではないということ。身体の大きな伸縮とは裏腹に、スピノジの曲作りは緻密だ。そこから弾むような音楽が聴こえたとすればそれは、楽曲が本来もっている躍動感に他ならない。スピノジの強みは、その本来の瑞々しさを損なわずに聴衆の元へ届けられるところにある。
 たとえばスピノジは、主旋律ではない「刻み」声部や、音色を司る管楽器を前景に引き寄せる。そうして現われるのは推進力あふれる「新世界より」だ。重戦車のキャタピラ –弦楽器のべた塗り– を捨てた彼のドヴォルジャークはいわば、心地よいエンジン音を刻むスポーツカー。タンデムするにはこちらの方が良い。
 

初出:モーストリー・クラシック 2012年5月号