メッツマッハー&新日本フィルの《アルプス交響曲》



2013年1月11日(金)すみだトリフォニーホール
新日本フィルハーモニー交響楽団 第503回定期演奏会

 今年9月より同団のコンダクター・イン・レジデンスに就任する指揮者、インゴ・メッツマッハーが登場。標題性の高い3曲を並べ、音楽表現の可能性を堂々と問う。
 J・シュトラウス二世の「ウィーンの森の物語」は「対話」の聴こえる演奏。各パート間の掛け合いはもちろんのこと、メッツマッハーは単旋律に潜む多声性=対話性もしっかりと浮き彫りにしていく。きちんと「ドイツ語」のウィンナ・ワルツ。
 その路線は、ヤナーチェク作マッケラス編の組曲利口な女狐の物語」でも守られる。加えて和声の緊張と緩和が各場面の緊迫感や安心感に直結。音画(鳥の鳴き声をフルートで、雷をティンパニで模倣するような書法)に頼らなくても、物語の起伏は充分に聴衆の元に届く。
 「対話の顕在化」や「緊張と緩和の彫啄」といった方向を受け継いだR・シュトラウスの「アルプス交響曲」は、まれなる名演と相成った。多くの演奏家が同曲の標題性を視覚イメージへと変換し、それを音画で描くという戦略を採っているが、メッツマッハーはそういった表現とは一線を画す。イメージの媒体を「映像」から「語り」へとシフトさせたのだ。いわば朗読である。
 こうした演奏により同曲から映画音楽臭さはすっかり抜けた。代わって韻律にすぐれた紀行文が会場を満たす。メッツマッハーが当夜、標題音楽の理想としたのは「語りもの」である。浄瑠璃節を愛でてきた本邦には打ってつけ指揮者と言ってよい。

初出:モーストリー・クラシック 2013年4月号