モンテヴェルディ 歌劇《ポッペアの戴冠》― アントネッロ



 古楽アンサンブル・アントネッロが送るオペラ・シリーズの第1回公演に足を運んだ。演目はモンテヴェルディポッペアの戴冠》。演出は彌勒忠史、指揮は濱田芳通が担当した。
 古代ローマ、暴君ネローネとその愛人ポッペアとが愛を貫き、ついにはポッペアが皇后の座を射止めるという筋書きの同作。彌勒はそれを、ヤクザの親分とその愛人とが添い遂げる任侠映画風に仕立て、日本人にとっての分かりやすさを追求した。
 たとえばネローネの正妻オッターヴィアが将軍オットーネを呼び出し、夫の愛人ポッペアを殺すように命じる場面。着物姿の正妻は、黒スーツで直立する若頭に鉄砲玉を命じ、夫の愛人に差し向ける。
 一方、管弦楽には多種の通奏低音楽器が並び、その多様な音色変化は詩の感情表出と密接に結びつく。「鉄砲玉」の場面を濱田は、銃声を思わせるバルトーク・ピチカートで始め、折々に不協和音を強調して緊張感を保った。
 歌手もこうした差配によく応えた。オッターヴィア役の澤村翔子は本邦の恨み節とバロック・オペラの情動とをうまくブレンド、ポッペア役の和泉万里子は本妻の座を狙う執念とネローネに対するまっすぐな愛とを表裏一体に描いた。ネローネ役もこなした彌勒は、大柄な体を活かした発声で最後まで見事な迫力。
 演奏者の様子から察するに聴き手は、澄まし顔で観るよりも「ポッペア危ない、後ろ後ろ!」と声を出すくらいがちょうど良い。次回以降はそんなボルテージで臨みたい。〔2013年9月3日(火)川口総合文化センター リリア〕


第2回公演→モンテヴェルディ 音楽寓話劇《オルフェオ》(2013年12月4日19時 於リリア)


初出:モーストリー・クラシック 2013年11月号

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