オペラ《バガヴァット・ギーター〈神の歌〉》



 ヒンドゥー教聖典を題材としたオペラの初演。北沢方邦が台本、西村朗が音楽を書いた。歌手は2人、器楽は打楽器のみ。戦士アルジュナ(加賀ひとみ)と、ヴィシュヌ神の化身であるクリシュナ(松平敬)とが、輪廻からの解脱や魂の不滅について対話する。
 西村はクリシュナが神の姿へと変容する場面を頂点とし、そのエネルギーを2通りに描く。ひとつは経時的エネルギー増大。徐々にリズムを細かくし、時間とともに増大するエネルギーを表現。もうひとつは共時的エネルギー放出。時間から切り離された力感を超大音量で示す。クリシュナの変容直前までエネルギーは経時的に高められる。変容を受け、それに対する讃歌が打楽器によって奏でられる。そのとき音量は最大値に達し、共時的に力を放出する。
 一方、声の高低が神秘的な内容を縁取る。「神の恐ろしき姿」「ヒマラヤ」には高音、「深く向かえ」「シャーンティの境地」には低音といった具合。3オクターブの音域を歌い切った松平に拍手を送りたい。〔11月23日(土・祝)サントリーホール ブルーローズ〕

初出:モーストリー・クラシック 2014年2月号

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