B→C 第138回 日下紗矢子 ヴァイオリン



*日下紗矢子がバッハで成果を挙げつつあるという。ホ長調協奏曲やシャコンヌを含むデビュー盤も発売間近。リサイタルも3月に予定されている。非常に心躍るニュースだ。というのも去年の今頃はこうだったから。激励の意味を込めて過去の批評を掲載する。1年でどう変化したか。若いヴァイオリニストの挑戦が実を結ぶことを祈る。

2012年1月31日(火) 東京オペラシティリサイタルホール

 「B→C」に、08年からベルリン・コンツェルトハウス管のコンサートマスターを務める日下が登場。バッハに、尹伊桑、ツィンマーマン、レーガーを加えたプログラムでドイツ音楽の18世紀と20世紀とをつないでみせた。
 さて、演奏の音楽性が楽曲の創意を表現することだとすると、3曲目のツィンマーマン「無伴奏ソナタ」は音楽性と演奏技巧の追求とがほぼ一致した音楽なので、楽譜通りに演奏できれば曲は形になる。その点で日下の演奏は危なげない。一方、前後半それぞれに配されたバッハでは、楽譜外にも音楽性が宿る。たとえば舞曲のリズム。当夜の「無伴奏パルティータ第3番」と通奏低音付きの「ホ短調ソナタ」にはどちらも、終楽章に「ジグ」が置かれるが、長短/短長が交錯するこの舞曲のリズム特性を日下が活かし切れなかったところに恨みが残る。
 とは言え、スタイルに凝り固まった印象のない日下のこと、18世紀音楽語法の学習は、次のステップに進むためのやりがいあふれる課題となるだろう。

初出:モーストリー・クラシック 2012年4月号