パシフィック・ミュージック・フェスティバル・オーケストラ



 パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)に集う若き精鋭たちによって組織されたオーケストラが、準・メルクルを指揮者に迎え演奏会を催した。この日はロシアのヴァイオリン奏者ワディム・レーピンとブルッフの「ヴァイオリン協奏曲 第1番」を演奏。後半はベルリオーズの「幻想交響曲」を披露した。
 この演奏会は、フェスティバル期間中に訓練を積んだ若者たちがその成果を発表する場であるとともに、正にこの演奏会そのものが「教室」でもある、という性質を持っている。当夜はこの「教室」としての役目が強く表にあらわれた。
 後半の「幻想交響曲」、大げさな強弱法には若い勢いが溢れる。ところがそれが和声の緊張と緩和とに有機的に結びつくことがない。緊張を保つべき不協和音が、デクレッシェンドの波間で力を失っていく。
 未達成部分の残る管弦楽に当夜、身をもって稽古をつけたのがレーピンだ。ヴァイオリンとオーケストラとが対話を積み重ねる協奏曲。レーピンは弦楽パートとのやり取りには弦の音色を、管楽パートとのやり取りには管の音色をあてる。音色の違いはヴィブラートの有無、その速度や幅で調整していく。音楽が緩和する直前、管弦楽が保ちきれない緊張感を、1本のヴァイオリンで堂々と維持してみせる。
 こうした名教師との共演は、管弦楽に参加した若者を大いに奮い立たせたに違いない。真の音楽教育の場に居合わせた幸せを思う。(2013年7月30日 サントリーホール

初出:モーストリークラシック 2013年10月号

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