山田和樹&東京混声合唱団「武満徹の全合唱曲」



2012年11月17日(土)第一生命ホール

 東京混声合唱団が山田和樹の指揮の下、武満徹の合唱作品を特集した。遺作とされる「MI・YO・TA」(沼尻竜典編曲)で幕を開けた演奏会は、「芝生」「手づくり諺」「風の馬」といった合唱作品に加え、独唱曲を武満自身が混声合唱用に編曲した曲集「うた」を並べたプログラムで、作曲者の合唱の世界をつまびらかにした。
 前半、3曲の合唱曲で武満徹の書法の大枠が示される。「風の馬」を例にとれば、大胆な不協和音、話し言葉のような節回し、風を模したような吐息、アフリカの歌「アビヨヨ」の引用、無調と調性との対置など。そういったひとつひとつの事柄を、山田と東混は丁寧に掬い取っていく。同曲中の「食卓の伝説」では大きな上行跳躍音程が「血まみれ」と「唇」とに当てられ、赤い色を表す。そこで短六度と減五度とのずれ=赤の色味の違いをきちっと描き分ける繊細さが、武満の書法を鮮やかによみがえらせるのだ。
 一方、後半の「うた」はみな調性音楽。ハーモニーだけでなく、声色の変化で音楽を造形したり、斉唱の迫力で聴き手に迫るといった手法はまさに、合唱だから出来ること。そこに独唱曲からの編曲の妙を感じ取れたのは収穫だった。しかし、この「妙」は聴くことによって得るのではなく、歌うことによって体感するのが吉。武満の合唱曲は「聴くべきうた」ではなく「歌うべきうた」なのだ。この日、用意された楽譜売り場は、そのことに気付いた人たちで溢れていた。

初出:モーストリー・クラシック 2013年2月号