宮田まゆみ Thanks to John Cage



9月5日(水) サントリーホール ブルーローズ

 20世紀のアメリカを代表する作曲家、ジョン・ケージの生誕100年、没後20年を記念する演奏会。笙の宮田まゆみが、作曲家の晩年の作品「One9」の全曲演奏に挑んだ。
 10分強の曲を10篇集めた「One9」は演奏に2時間を要する。1曲は数個のユニットに分かれていて、各ユニットにはいくつかの和音と単音とが配される。ユニット毎に演奏時間が指示されるが、ユニット内部の時間分節は奏者に任される。だから演奏上は、きわめて長い音ときわめて短い音とを半ばさせて緊張感を高める戦略もあり得る。しかし宮田は、そういった作為を排し、まるで呼吸そのままにリズムを刻んでいった。だから、不意に訪れる長い沈黙に、逆説的ながら耳を奪われることとなる。
 音が呼吸そのものだとすれば、沈黙はまさに死だが、宮田が息を吹き返す=再び音を響かせることで聴衆は安心を取り戻す。音楽の「緩和と緊張」が「生と死」に直接的に結びついた希有な音楽を、ケージと宮田は実現した。

初出:モーストリー・クラシック 2012年11月号