森下唯「アルカン ピアノ・コレクション5《幻影》」

アルカン ピアノ・コレクション5《幻影》◇森下唯(ピアノ)〔ALCD-7239〕

 技巧派の若手ピアニストによるアルカン作品集の第5弾。このたびは48のモティーフ《エスキス》作品63を全曲、録音した。24調を網羅する点でバッハの《平均律曲集》に似るが、実態はむしろ、クープランやデュフリらの《クラヴサン曲集》に近い。作曲家は1曲1曲に意味ありげなタイトルを付け、その性格を音楽で表していく。テンポや旋律線もその表現の重要な絵筆となるが、芯にあるのはやはりハーモニーだ。小品の連なりにつき、その内部で凝ったことをたくさんはできない。だからこそ大切なのは属和音と主和音の最小ユニットで、きちん緊張感の落とし前をつけること。森下はその点に手抜かりがない。小さなユニットが積み重なり、大きな物語を紡ぐ。



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