ハレ・ヘンデル音楽祭2019(2)

 6月2日(日)はヘンデルの生家・ヘンデルハウスで、「ペルシャバロックの交差点」なる演奏会を聴いた。チェンバロのジャン・ロンドー、リュートのトーマス・
ダンフォード、トンバク/サントゥールのカイヴォン・シェミラニがトリオで出演。イラン由来の曲と西洋バロック期の作品とを組み合わせ、それらを各楽器の即興でつないでいく。
 楽器の編成も巧み。リュート欧亜全体に広がる撥弦楽器サントゥールは西洋でも用いられ、ハンマーダルシマーと呼ばれている。チェンバロがハンマーダルシマーの構造や、リュートの奏法からさまざまな影響を受けていることは言うまでもない。打楽器のトンバクが入ることで、西洋音楽も原初の姿に戻ったかのように響く。
 プログラムに並ぶ作品の間だけでなく、その作品そのものにも即興の色合いが強い。その自由さがもっとも高く羽ばたいたのは、イタリア・バロックの作曲家ストラーチェの《チャコーネ》において。低音の主題を繰り返し繰り返し演奏する。その間、さまざまな変奏を各楽器で受け渡しつつ曲は進む。
 繰り返しの魔力、定型に抗うような変化、その相克が生む緊張感、その先にある安堵感。ただ自由なだけではない。たとえばチェンバロのロンドー。彼の自由さの土台の部分は真っ当なバロック音楽語法。その固い基礎があるから、その上で飛んだり跳ねたりしても作品の屋台骨は揺るがない。
 それはリュートのダンフォードも同じ。ふたりのバロック音楽語法に、シェミラニによるペルシャの打楽器が呼応するのが面白い。欧州と中東とが陸続きであることを強く感じさせる瞬間が多々ある。
 自由を保証する確固たる基盤。今、もっとも先端にいるチェンバロ奏者らにも、その遺伝子が受け継がれていることに意を強くする。



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