バッハ《ミサ曲 ロ短調》◇ クリスティ&レザール・フロリサン

バッハ《ミサ曲 ロ短調》◇ウィリアム・クリスティ(指揮), レザール・フロリサン(合唱・管弦楽)〔KKC5886〕

フランス音楽に強い古楽奏者クリスティが、バッハ畢生の大作を世に問う。彼らの当該曲の実演を2016年、ライプツィヒで聴いた。そのとき得た印象は「開放的なミサ曲」。録音にも同様の趣がある。巨視的には、キリストの十字架上の死に沈み込むのではなく、その後の復活と昇天を祝い、救済の喜びに浸る解釈。とりわけ「感謝の祭儀」にあたる「サンクトゥス」以下に活気を持って取り組む点に、そうした「開けた」解釈が現れる。微視的には、たとえば第三曲「キリエ」の譜割を「エレーイーソン」ではなく「エレーエーィソン」とすることで、開けた母音「エ」を印象付ける。こうした微に入り細を穿つ諸実践が、大局の鷹揚さにつながる。



.