読売日本交響楽団 第581回定期演奏会

 カンブルランがハースの《静物》とラヴェルの《ラ・ヴァルス》とで、演奏会後半を「静と動」の対比プログラムに"偽装"した。《静物》がその場に留まっているわけでもないし、《ラ・ヴァルス》が動き続けているわけでもない。カンブルランの音楽は静でも動でもなく、「第3の運動性」というか「第3の様態」を示す。
 それは「堆積する音楽」。テクスチュアの異なる布地を、一枚また一枚と舞台に重ねていく。塩瀬だったりお召しだったり、上布だったり縮だったり。それらがときには透けたり、ときには前の布を覆い隠したりしながら、舞台にあらたな音模様を織り出す。四拍子(《静物》)/ 三拍子(《ラ・ヴァルス》)がつねにパルスを打つ、つまり"機織りの規格"が決まっている両作品であるがゆえに、いっそう布地の質感が前面に出た。
 糸(各奏者の音)の質、布の各部分(各パート)の織り模様や色、その模様や色の配置(管弦楽全体)、それが醸し出す手触り(聴き手側の感触)。それらを次から次へと"織り出して"は舞台に重ねる。エネルギーがその場に堆積していくような、こうした演奏の様子はさしずめ、日本の宮中音楽・御神楽のよう。このプログラムを日本の管弦楽団でおこなう意義を強く感じる。
 カンブルランの「大人の仕掛け」を、涼しい顔でやり遂げた読響の仕事に拍手。このコンビはここまで到達したのか。感慨深い。(2018年9月28日〔金〕サントリーホール



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