都響第855回定期演奏会B

東京都交響楽団第855回定期演奏会Bシリーズ◇2018年5月22日 於サントリーホール

 指揮者の下野竜也が、ふたりのユダヤ系創作家の作家性を前面に押し出したプログラムをおくる。
 ひとりはメンデルスゾーン。この作曲家の交響曲スコットランド》は韻律のアートだ。冒頭の長短短の韻律を短短長に組み替えたり、短長長に変化させたりしながら、曲全体を束ねるかすがいとして利用し、終楽章のコーダで長短短へと回帰する。これをオーケストラが丁寧にすくいとった。また音色転換が和声の緊張と緩和の行き来を描く。その行き来が場面の移り変わりを推し進める力となり、旋律美を支える柱となった。
 もうひとりはボブ・ディラン。コリリアーノの管弦楽付き歌曲《ミスター・タンブリンマン ― ボブ・ディランの七つの詩》の日本初演だ。音楽はアリア風と朗唱風とが交互する。歌手(ヒラ・プリットマン)の声は楽譜の指示通り音響機器で増幅済み。朗唱での言葉は明瞭に聞こえるが、アリアでの声は管弦楽にかき消されることもある。これは創作上、狙ってかき消していると見るべきだろう。そこに逆説的に表現の中心がある。その言葉に耳をそばだたせる効果として、はたまた、本当に大切なことは隠しておくべきという信念の現れとして。当を得た日本初演だった。


初出:音楽現代 2018年7月号





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