アヴデーエワ「バッハ作品集」

◇J・S・バッハ:イギリス組曲, トッカータ ニ長調, フランス風序曲 ◇ ユリアンナ・アヴデーエワ(ピアノ)〔KKC5851〕

アヴデーエワの弾くバッハ作品集。これまでさまざまな作曲家の作品を組み合わせて録音を作ってきただけに、バッハひとりを特集するのは少し異例だ。そうした意気込みは演奏にも現れていて、とりわけ《フランス風序曲》の立体的な表現が素晴らしい。それを担保するのが、弦楽器の弓の上下を思わせる音運び。上げ弓と下げ弓の力具合の違いを、上拍と下拍の力動性に対応させるので、流れるような場面や緩徐な楽章でも拍節感は失われない。たとえば「ガヴォット」の跳ねて着地するような運動性。そのステップを音楽が、上拍下拍と続く拍節で模倣する。それを弓の上げ下げに変換し、ピアノでその力動を表現する。“基礎体力”のしっかりとしたバッハ演奏に拍手。

初出:音楽現代 2018年7月号





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