ヴァイグレ、読響の次期常任指揮者に

読売日本交響楽団は、2019年4月1日付でセバスティアン・ヴァイグレ(Sebastian Weigle)を第10代常任指揮者に迎えると発表した。最初の任期は、2022年3月末までの3年間。ヴァイグレはドイツ出身の指揮者で、2008年からフランクフルト歌劇場の音楽総監督を務める。読響との初共演は2016年8月。翌年、R・シュトラウスばらの騎士〉でもピットを共にした。なお、2019年3月末で退任する現常任指揮者のシルヴァン・カンブルランには、桂冠指揮者の称号が贈られる。ヴァイグレと読響との初共演については、以下のとおり批評を寄稿した。ここであらためてご覧になり、このコンビの今後を占うよすがとしていただきたい。
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読売日本交響楽団 第561回定期演奏会

 フランクフルト歌劇場音楽総監督のセバスティアン・ヴァイグレが、読響の定期演奏会に初めて登場。得意のR・シュトラウスで演目を固め、日本の聴衆に指揮の実力を見せつけた。
 ヴァイグレはシュトラウスを、極めて細い糸で織り上げようとする。管弦楽、とくにヴァイオリンが高い精度でそれに応える。糸は細くとも織り上がる布の重さは変わらない。織りが緻密ということだ。光沢は増し、わずかな動きでも表情を変える。管弦のバランスを繊細に調えることで、緊張と緩和の落差を大きくする。大げさな強弱はない。それが緩和を先延ばしにする局面でも効果を発揮した。聴き手はシュトラウスの和声の綾に巻き込まれていく。
 交響詩ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」でそうした音楽が響いたあと、会場全体はもう指揮者の手の内に落ちた。「4つの最後の歌」では、とりわけ第1曲でソプラノのエルザ・ファン・デン・ヘーヴァーが繊細さを発揮。口跡と音量とが、お互いを殺さない地点で釣り合った。
 局所的にはつねに軽やかだが、結果として軽々しくならないのは「家庭交響曲」でも同じ。こうした方向性は、日常生活の各場面と、登場人物それぞれの性格とを細やかに描き分けるこの作品にうってつけだ。
 この指揮者が管弦楽に求める機能と、読響の持つ高精細な演奏能力との平仄がぴたりと一致している。音楽上の相性の好さを、強く聴衆に印象付けた一夜。〔2016年8月23日(火)サントリーホール


初出:モーストリー・クラシック 2016年11月号






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