読売日本交響楽団 第608回名曲シリーズ

 シルヴァン・カンブルランの指揮で読響が、シリーズの名にふさわしい演奏会。とはいえこのコンビが、単なる名曲コンサートをして事足れりとするはずもない。
 ブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」はイザベレ・ファウストの独奏。彼女はつねに、ヴァイオリン演奏が弓のアートであることを再認識させてくれる。たとえば第1楽章、4つの音が順に下行する音形の繰り返し。この繰り返しをファウストは、すべて違う語り口で弾く。そのおかげで単旋律にさえ、音楽の対話が生まれる。弓の巧みさのなせるわざ。こうした弓のアートが管弦楽に伝染する。舞曲風の第3楽章でそれは、リズムの力動につながった。
 この協奏曲(ニ長調)を受け、マーラーの編曲によるバッハの「管弦楽組曲」(ロ短調およびニ長調)を経て、ベートーヴェンの「運命」(ハ短調からハ長調)へと続く流れがすばらしい。第一に、ニ長調ロ短調ニ長調と運ぶプログラムで、「運命」のハ短調からハ長調へと進む“物語”を聴き手に予習させたこと。第二に、すべての演目でティンパニを扇の要としたこと。ティンパニ奏者(近藤高顯)が極めて優秀だったこともつけ加えたい。
 このふたつの補助線のおかげで、「運命」第3楽章掉尾のティンパニによる同音連打を経て、ハ長調の第4楽章冒頭に響く“教会の音”・トロンボーンへと、聴き手の耳は強烈に引き込まれた。巧みな組み合わせの名曲を名演奏で。そこには何にも代えがたい魅力がある。(2018年1月19日〔金〕サントリーホール


【CD】イザベレ・ファウスト▼ブラームス ヴァイオリン協奏曲


初出:モーストリー・クラシック 2018年4月号






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