ライプツィヒ・バッハ音楽祭2011 (2)「アンサンブル・ディアマンテ、バッハの街にデビュー」


 バッハ音楽祭の昼の時間帯は、国際コンクール入賞歴のある若手演奏家のためのコンサートが開かれます。シリーズの名前は「抜群!Ausgezeichnet!」。看板に恥じない俊英が今年も集っています。
 11日、同シリーズのトップバッターとして登場したのが、アンサンブル・ディアマンテ。オランダで勉強した4人の音楽家で構成されています。メンバー宇治川朝政(うじがわ・ともかず)さんがリコーダーでマクデブルク・テレマン・コンクール第1席、アンサンブル・ディアマンテがブリュージュ古楽コンクール第2席と好成績を収め、バッハ音楽祭の舞台を射止めました。プログラムはテレマンヘンデル、ヴィヴァルディ、そしてバッハと、バロック音楽「黄金の取り合わせ」。顔見せとして申し分のない構成です。

 演奏は堂に入ったもので、とりわけ印象に残るのは、18世紀音楽の語法と自分たちの「身体の合理性」とを無理なく接合できているところ。たとえば、弱拍(上拍)と強拍(下拍)。これは拍子の運動性を表す言葉。弱拍はボールの投げ上げ、つまり初速が速く最終的に力が弱まる運動と表現できる一方、強拍はボールの落下、つまり初速が遅く最終的に力強く着地する運動と喩えることができます。そんな「音楽の合理性」が息づかいや弓づかいにしっかりと現れているのが、アンサンブル・ディアマンテです。
 ですから彼らの演奏は、音楽に逆らったところがありません。快活なところは快活に、重苦しいところは重苦しく。バロック音楽がつねに「人間感情の類型」を示していたことを考えれば、まっとうな方向です。
 ただ、合理的な演奏というのは予定調和に陥りがちなのもまた事実です。もちろん、それを乗り越えていく「萌芽」がアンサンブル・ディアマンテは見られます。たとえばリコーダーの順次下行音形。付点も何もない箇所なのに、ほのかなスイングが感じられるのはおそらく、タンギングの工夫によるのでしょう。すなわち「トゥル/トゥル/トゥル/トゥ」とするところを「トゥ/トゥル/トゥル/トゥル」とひっくり返してみたりする。こうして、ほのかなゆらぎを生み出しているわけです。
 ですから、こういった感覚をもう少し先に進めて行くのが今後の課題ではないでしょうか。バロック音楽の演奏にとって合理性はとても大切ですが、そこに居座ると予定調和になる。しかし、バロック音楽にはそれを回避するための手段も用意されています。それは装飾と通奏低音です。両者に共通するのは即興性。切り込み鋭い通奏低音に対し、上声部が見事な装飾で応じる。この辺りにアンサンブルの活路があるように思います。
 仲睦まじい様子の演奏も魅力ではありますが、闘争心むき出し(即興の競い合い等)の演奏が妙なる調和を作り出す瞬間も聴いてみたい。聴き手の贅沢な願いにどこまで応えられるか、アンサンブルのお手並み拝見と参りましょう!

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2011年6月11日(土) 於:ライプツィヒ証券取引所

G. P. テレマン《トリオソナタ イ短調》TWV42: a1
G. P. テレマンソナタ ハ長調》TWV41: C2
G. P. テレマン《トリオソナタ ヘ長調》TWV42: F3
G. F. ヘンデルソナタ ニ短調》HWV367a
A. ヴィヴァルディ《協奏曲 ヘ長調》RV100
G. P. テレマン《トリオソナタ ヘ短調》TWV41: f2
J. S. バッハ《トリオソナタ ト長調》BWV530

アンサンブル・ディアマンテ:宇治川朝政(リコーダー), 木村理恵(ヴァイオリン), ロバート・スミス(ヴィオラ・ダ・ガンバ/チェロ), 福間彩(チェンバロ)
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写真:アンサンブル・ディアマンテ(2011年6月11日, ライプツィヒ証券取引所)