国際マーラー音楽祭(1)「功労者はゲヴァントハウス大ホール」



 17日、国際マーラー音楽祭がいよいよ開幕。トップバッターはリッカルド・シャイー指揮、ゲヴァントハウス管弦楽団の《交響曲第二番 ハ短調》です。合唱はベルリン放送合唱団、中部ドイツ放送合唱団、ゲヴァントハウス合唱団の混成部隊(160名超)、独唱はソプラノのクリスティアーネ・エルツェとアルトのサラ・コノリーが務めました。会場はもちろん、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス大ホールです。
 この日のシャイーの戦略は「各声部を精緻に描き分けることで、マーラーの『仕掛け』をあぶり出す」というもの。多種多様な楽器、大編成のオーケストラ、たくさんの歌い手たちという音響体を相手に、どの声部も明晰に聴き取れるような交通整理を行うのは至難の業。シャイーは当夜、それを成功させました。
 これは《第二交響曲》に相応しい戦略です。というのも、まるで関連性がないように思われた各楽章が、最終楽章でその役割を明らかにされ、変ホ長調へと鮮やかに転身するこの交響曲では、第1〜第4楽章でマーラーがひとつひとつ打って行った布石を、そのときにしっかりと聴き取っておかなければならないからです。それらが、勢いに飲まれて音の海に沈んだりしたら、第5楽章の謎解きの爽快感が失われてしまいます。

 そんなシャイーの戦略を可能にしたのが、ゲヴァントハウス大ホールです。このホールは、どの場所で聴いてもステージを近くに感じることができる演奏会場で、とりわけ声部の分解能に優れています。つまり、大きなオーケストラでさえ、どの声部がどんな音を出しているかよく聴き取れる、高性能コンデンサ・ヘッドフォンのようなコンサートホール。


 そんな「会場の特性」に「《第二交響曲》の構造」を加味し、「声部を精緻に描く戦略」を決断したところに、シャイーの音楽勘の良さがよく現れています。もちろん、大編成楽団特有の音の勢いや迫力が失われたわけではありません。それを担保した上で、ゲヴァントハウス管は器用で繊細な声部処理も出来るのだ、というところを見せてくれたのです。ブロムシュテットの訓練の賜物を、いよいよシャイーが血肉にしつつあるのかも知れません。6年目のシーズンが終わろうとする今、その成果が見事な形で実を結びました。
 さあ、これで音楽祭を楽しむ上でのひとつの方向性が見えてきました。つまり、アウェイの楽団がゲヴァントハウス大ホールの響き、とりわけ分解能をどう利用するか、また《第八交響曲》で再登場するシャイー&ゲヴァント管が26日(再演27・29日)、同様の戦略を採るのかが聴き所になる、ということです。
 今日はエサ=ペッカ・サロネン指揮、シュターツカペレ・ドレスデンによる《交響曲第三番 ニ短調》の演奏です。首尾はいかに?


写真:(上)リッカルド・シャイー/(下)ゲヴァントハウス管弦楽団
   2011年5月17日, ライプツィヒ・ゲヴァントハウス大ホール