マレイ・ペライア ピアノリサイタル

 バッハや古典派の鍵盤楽曲に定評があるとされるピアニストのリサイタル。前半にモーツァルトの「ピアノ・ソナタ第8番」とブラームスの小品をいくつか、後半にベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」を置く保守本流のプログラムで、40年に及ぶキャリアの現在を問う。
 モーツァルトの音楽が響きだしてすぐに気づくのは、このピアニストが均質な音色を強く志向している様子。たとえば「表情」や「目の色」、「顔の向き」を変えるように刻々と色味を変えるゼクエンツ(和声変化を伴う模続進行)も、特段の変化をつけることなく弾き進める。こういうのを「端正な演奏」と称するのであれば、機能和声の作品群には、およそ「端正な音楽」などないことになる。
 後半に移るとその傾向はさらに顕著。段落感を掘り深く描かないので、作曲家の仕組んだ肩透かしも不発。一方で作品の構造とは別の、個人的な視点で強弱や緩急が設定される。地口を弄する演奏とはこういうことを言うのだろう。(10月31日 サントリーホール


初出:音楽現代 2017年1月号




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