ブルックナー《交響曲第8番》― ケント・ナガノ&バイエルン国立管



ブルックナー《交響曲第8番》(1887年第一稿)〔KKC5338〕
ケント・ナガノ(指揮), バイエルン国立管弦楽団管弦楽

音盤の成果は演奏家だけでなく録音技師にも帰する、というのは忘れがちなことのひとつ。この録音からは、音楽家の秀演はもちろんのこと、録音チームの鋭い感覚が聴こえてくるようだ。注目は管弦のバランス。すべてを飲み込みつくすような弦楽器も、舞台ごと発破するような管楽器もない。管弦のそれぞれの魅力を滲ませつつ、管でも弦でもない第三の音色が交響曲を彩る。これがブルックナーお得意のコラール風楽句に力を発揮。さらに重要なのは対位法的に進む場面で「管・弦・第三」の音色の差異が声部の交通整理に寄与したことだ。演奏家はもちろん、録音技術陣がそうした音楽上の肝をきちんと理解して仕事に当たっている点に感嘆。


初出:音楽現代 2013年12月号