ドイツ音楽祭めぐり2013 ― 復活祭編(4)


 バーデン・バーデン祝祭劇場イースター音楽祭には、昼間のコンサート・シリーズが用意されている。18時からの本割りはなかなか高額なのだけど、14時からのこちらはお手頃で15ユーロ。1時間強の短いステージながら、ベルリン・フィルの団員が出演ということで、いつも会場はいっぱいだ。会場はバーデン・バーデン市街の教会や歴史的建築のホテルなど。こういう演奏会にこそ「都市滞在型音楽祭」の醍醐味がある。当方はそのうち4つのマチネに足を運んだ。


3月25日「静寂のこだまに」於ブルダ美術館
 醜悪なものを観せられた。最もタチの悪いオリエンタリズム。企画、作曲、ヴァイオリン、各種打楽器(主に中国風の磬子)をビルクホルツ、 舞踊を針山愛美が担当した。
 4曲組の1曲目から嫌な予感がする。作曲者=演奏者は日本と作品とのつながりを強調したい様子なのだが、日本と中国の音楽の違いを弁別できていない。打楽器は中国風、旋法も中国風。2曲目、無調のアルベジオに「静寂のこだまに」と副題をつける。最終的にきっちり音程のある鈴(リン)とヴァイオリンとで「ソ→ド」と締めたので少し驚いた。3曲目、日本の自然に触発されてとのスピーチの後、相変わらず中国風の旋法が奏でられる。1、2曲目では良くも悪くも存在感の薄かった舞踊がここに来て強烈に「個性」をアピール。ストリップショウみたいなスケスケ着物風衣装で登場した。「日本」と言えばいまだにこれか……。
 ここまで具合の悪いオリエンタリズムもそうそうない。企画・作曲・演奏のビルクホルツには中国や日本にたいする敬意が欠けている。さもなければ「日本の自然に触発されて」と言いながら中国風の旋律を奏でたりしない。我慢しきれず3曲目の演奏中に席を立つ。日本人ダンサーはあのコンセプトで納得しているのか?少し見識を疑う。


3月26日「4と4 ― ヴァイオリンとチェロ」於オランジェリー
 楽しい公演。4人のヴァイオリン奏者と4人のチェロ奏者がタッグを組む。とりわけチェロ・カルテットの表現力の大きさに感心。もともと低音楽器な上、達者な奏者たちが見事に高音を繰り出すから、チェロだけできちんと四声部。こういうお楽しみコンサートは拍手もひときわ大きい。ドビュッシー《月の光》、フォーレ《シシリエンヌ》、ピアソラリベルタンゴ》など。


3月27日「シューベルト《八重奏曲》」於バーデン・バーデン祝祭劇場
 樫本大進率いるベルリン・フィルのメンバーシューベルトの大曲。とても残念な演奏。シューベルトはこの曲全体を「ダクテュルス(長短短格)」のリズムでまとめている。このリズム感がアンサンブルの肝なのだけど、その感じ方が8人8様。もう少し踏み込んで言うと、樫本vsその他7人で大きく違っている。もちろん演奏者は、アンサンブルを整えようと努力しているけれど、基本リズムの感じ方がそもそも違っているので、どうにも煮え切らない。みんな拍手していたけど、いたたまれなかった。


3月28日「トロンボーンの音楽」於バーデン・バーデン司教座教会 
 そんなこんなの欲求不満を見事に解消してくれたのが、こちらの演奏会。ベルリン・フィルのトロンボニスト4人がコンサート。すばらしいPosaunenmusik!彼らは「唇の震えが聴こえるようなトロンボーン」奏者であり、「野太く目の詰まった音のポザウネ」奏者であり、「こもっているも細く突き通すような響きのサックバット」奏者でもあった。これで 16、17、19、20世紀を吹き分ける。ラッスス(1532-1594)で完璧にハモッたあと、ドビュッシー(1862-1918)で「わざと」完璧にハモらない(ピュタゴラス3度)!残響5秒の教会で週内最高の演奏会のひとつを堪能した。他にダウランド(1563-1626)、シュペアー(1636-1707)、プレムル(1934-1998)など。


 「玉石混淆こそ音楽祭の魅力」と以前から言っているけれど、それを地でいくマチネ公演。せっかく休暇を取って音楽祭に参加するなら、昼間から音楽づけになるのも悪くない。教会の豊かすぎるほどの残響なんて、演奏会に参加しないとなかなか味わえないものだ。たまにハズレもあるけれど、バーデン・バーデンで言えば夜の公演1回分で、昼の公演を12回も聴けるわけで……。多少の当たり外れもまとめて楽しんでしまおうというのが「音楽祭巧者」への第一歩なのだ。

写真:トロンボーンの音楽(左からオット, ゲスリンク, ソレンセン, ライデンデッカー. 3月28日, バーデン・バーデン司教座教会)