誰がゲヴァントハウス管弦楽団を変えたのか?


 世界最古の民間オーケストラ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。1743年の創立以来、メンデルスゾーンニキシュフルトヴェングラー、ヴァルター、コンヴィチュニーといったそうそうたる音楽家を楽長に戴き、活動を続けてきました。
 直近ではクルト・マズア(在任1970-1996)、ヘルベルト・ブロムシュテット(在任1998-2005)がカペルマイスターを務め、2005年の秋からリッカルド・シャイーがその任を継いでいます。
 この直近3代で、ゲヴァントハウス管の音は大幅に変わったと言われます。よく言えば重厚長大路線でいぶし銀、悪く言えばアンサンブル精度が低く大音響だけが取り柄のオーケストラが、すっきりとした音響を奏でるようになりました。とりわけ、シャイーの楽長就任を境に、弦楽器の精度、木管楽器の彩り、金管楽器の輝きが共に増し、よりスタイリッシュなオーケストラに変貌したとされています。つまり、このスタイリッシュさに代表される「望ましい変化」の手柄はリッカルド・シャイーにある、という意見です。
 その考えは端的に誤りです。2000年代の初めからゲヴァントハウス管を「定点観測」して来た経験からすると、変化は2003年から2005年にかけて訪れました。それまでの「クルト・マズア路線(来ると不味い、でおなじみ)」からようやく脱却し、弦楽器の精度が整いだし、木管楽器が楽器本来の個性を発揮し始め、金管楽器がただぶっ放すだけの演奏から足を洗い出したのがこの頃です。
 こうした変化を促した楽長こそヘルベルト・ブロムシュテットです。その成果が十全に発揮されたのが2005年、ブロムシュテット退任記念となった、バッハ《ミサ曲ロ短調》の演奏会(5月8日, ライプツィヒ・トーマス教会)。この演奏でゲヴァントハウス管は、往時の悪弊「マズア病」から抜け出し、現在に到るスタイリッシュな演奏を自分のものとしました。
 リッカルド・シャイーは、ブロムシュテットが苦労して整えた「新生ゲヴァント」を引き継ぎ、その延長線上で仕事をしているに過ぎません。今、彼の功績としてあげられる事柄があるとすれば、ブロムシュテットが整えたゲヴァントハウス管のサウンドをスポイルせずに保っている点でしょう。
 ですから、ゲヴァントハウス管におけるシャイーの功績を判断するにはもう少し時間が必要です。そして、20世紀と比べ、21世紀のゲヴァントハウス管弦楽団に素晴らしい点が目立つとすれば、それは前任者、ヘルベルト・ブロムシュテットの功績なのです。


写真:ゲヴァントハウス管弦楽団(2009年9月, ライプツィヒ・ゲヴァントハウス)