「格付け二題」第1篇


 『モーストリークラシック』8月号をご覧のみなさんはご存知の通り、「最新格付け!世界のオーケストラ」が発表されました。当方もアンケートに参加し、次のようなランク付けをしてみました。

01 ベルリン古楽アカデミー
02 バルタザール・ノイマン・アンサンブル
03 アムステルダムバロック・オーケストラ
04 エンシェント室内管弦楽団
05 イングリッシュ・バロック・ソロイスツ
06 18世紀オーケストラ
07 コレギウム・ヴォカーレ・ヘント
08 アニマ・エテルナ
09 コンツェントゥス・ムジクス・ヴィーン
10 クラシカル・プレイヤーズ東京

 ピリオド楽器系のオーケストラばかりですが、「古楽10傑」というわけではなく、「世界のオーケストラ」上位10団体(と当方が思うオーケストラ)を選出しています。極力ライブ演奏を参考に、そこにCDでの成果を加味して、というのが選出に際して気を付けたこと。選出の基準はやはり、18世紀から19世紀前半の音楽を望ましく演奏できたかどうか。この点は当方の「来し方」に依存しています。以下、各オーケストラの選考理由を公開します。

第1位 ベルリン古楽アカデミー:2004,05,06,08年と演奏会に接し、何度も感心させられたオーケストラ。とりわけ、2004年のメンデルスゾーンパウルス>(ライプツィヒ・ニコライ教会)と2008年のパーセル<ディドとアエネアス>(ベルリン州立歌劇場)は名演中の名演。今年9月のケーテン・バッハ音楽祭、ライプツィヒメンデルスゾーン音楽祭も楽しみ。そして、来年のライプツィヒ・バッハ音楽祭では満を持して<ロ短調ミサ曲>(ルネヤコプス指揮、バルタザール・ノイマン合唱団)!

第2位 バルタザール・ノイマン・アンサンブル:かねてから評判になっていた古楽オケ。2008年のC.P.E.バッハマタイ受難曲>(ライプツィヒ・ニコライ教会)、2009年のバッハ<ロ短調ミサ曲>(同トーマス教会)で信じられない精度のアンサンブルを聴かせてくれた。同名の合唱団もRIASと並び、世界最高峰!

第3位 アムステルダムバロック・オーケストラ:2003,04,06年にライブに接する。とりわけ2003年のバッハ<マニフィカト変ホ長調>(ライプツィヒ・トーマス教会)、2004年の同<復活祭オラトリオ>(ハンブルク・ミヒャエル教会)は忘れられないコンサート。前者は<マニフィカト>の見方が変わった大切な演奏会となった。

第4位 エンシェント室内管弦楽団音楽学者ザスラウとの共同作業で実現したモーツァルト交響曲演奏で有名。ホグウッドからエッガーに指導者が変わってもその実力は衰えない。むしろ若々しさが蘇った感がある。モーストリー誌の「古楽オケ評」コーナーを見ると、ホグウッド時代しか知らない向きも多いのでは、と思わされる。2009年、ヘンデル音楽祭での<メサイア>はソリストにも恵まれ、畢竟の名演。

第5位 イングリッシュ・バロック・ソロイスツ:2005,07,10年とライプツィヒ・バッハ音楽祭に登場。2005年のバッハ<マタイ受難曲>も、バッハ一族の声楽曲を2晩にわたって披露した2007年の演奏会も素晴らしかったが、なんと言っても今年の<ミサ曲ロ短調>。「格付け二題 第2篇」でも取り上げるが、<ロ短調>ランキング暫定1位の名演。生きててよかった!この名演によりランクをふたつ上げ、ABOと同率3位にしたいところ。

第6位 18世紀オーケストラ:もうよぼよぼのブリュッヘンが指揮台に立つと(指揮台の椅子に腰掛けると)変幻自在のサウンドが響きだす。何とも不思議なオーケストラ体験。2010年、バッハ<ヨハネ受難曲>(アイゼナハ・ゲオルク教会)は、奏法の隅々まで18世紀の語法に基づく「ブリュッヘンの語法」が浸透した演奏。見事。ダンタイソンとのCD「ショパン<ピアノ協奏曲>(NIFCCD004)」での管弦楽も選出理由のひとつ。

第7位 コレギウム・ヴォカーレ・ヘント:2003年にバッハ<ロ短調ミサ曲>(ライプツィヒ・トーマス教会)、2008年に<ヨハネ受難曲>(同)と大曲の演奏に接する。しかし、もっとも感心したのは今年のライプツィヒ・バッハ音楽祭。バッハのカンタータを4曲披露したが(同ニコライ教会)、微に入り細を穿つ解釈ながら近視眼的なところがまったくない驚異的な演奏。EBS同様、こちらも二階級特進としたいところ。9月のケーテン・バッハ音楽祭での<ミサ曲ロ短調>も期待大!CDもメンデルスゾーンパウルス>、フォーレ<レクイエム>に名盤あり。それらも選出理由。

第8位 アニマ・エテルナインマゼール率いる古楽オケ。モーツァルトベートーヴェンの演奏で成果を上げている。「ベートーヴェン交響曲>全集」は現在、もっともすばらしく、もっとも破壊的な力を持ったベートーヴェン演奏の録音。このCDと「モーツァルト<クラヴィア協奏曲>全集」とで業績は充分。堂々のランク入り。ちなみにベルリオーズ幻想交響曲>もおすすめ。

第9位 コンツェントゥス・ムジクス・ヴィーン:アーノンクールの手兵。古楽隆盛の基礎を作った大切な団体で、日本でも人気が高い。モーストリー誌上でもランキングに挙げた方が多かった。演奏はもちろん高レヴェル。しかし、他の古楽オケに比べて取り立てて素晴らしい演奏をするわけでもない。2007年、バッハのカンタータライプツィヒ・トーマス教会で披露したが、会場の音響の難しさに飲まれ、惜しい演奏会となった。今年10月の来日公演、バッハの<ロ短調ミサ曲>に期待を込めてのランクイン。

第10位 クラシカル・プレイヤーズ東京:東京バッハ・モーツァルトオーケストラという名前でスタートした古楽オケ。有田正広さんが音楽監督寺神戸亮さんや鈴木秀美さんも団員として活躍した。なんといっても有田さんの18世紀音楽に対するまなざしがすばらしい。モーツァルトに名演奏多し。とくに2008年のK.551[交響曲第41番](東京芸術劇場)は日本が世界に誇る快演だ。

 以上、当方のランキング理由でした。「はずし」を狙って古楽オーケストラONLYになったわけではありませんので悪しからず。