ノリントンがまた暴走!


 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は、現存する最も古い西洋式オーケストラ。演奏会に「来るとマズイ」でおなじみ、クルト・マズア(マズアのまずい演奏はこちら)に率いられていた時期のゲヴァントを良いと思ったことはありませんが、カペルマイスター(音楽監督)がブロムシュテットに変わり、楽団の音にも徐々に変化が現れました。ブロムシュテット最後の年となった2005年のバッハ<ロ短調ミサ曲>は、ゲヴァントハウスの進化を告げる快演だったと思います。
 そのブロムシュテットライプツィヒを離れ、現在のシェフはリッカルド・シャイーブロムシュテットによって磨かれた弦楽に、シャイーが管楽で色づけをほどこす、というのが現状でしょうか。
 一方で、多くの客演指揮者とも成果を上げているゲヴァントハウス。ピノックとの演奏では、ピリオド奏法に思わぬ親和性を示して「大吉」。モーツァルトベートーヴェンメンデルスゾーンで成果を上げました(演奏会の様子はこちら)。
 どうも古楽との相性が良さそうな最近のゲヴァントハウス管。3月18・19日に満を持して登場したのがロジャー・ノリントンです。2008年のバッハ音楽祭ではブレーメン・ドイツ室内管弦楽団を率いて見事な「暴走」を見せてくれた(「暴走」演奏会の様子はこちらノリントンですが、今回はゲヴァントと組んでのオール・バッハ・プログラム。3月21日のバッハの誕生日を先取りで祝うというわけです。
 プログラムを飾るのは、<管弦楽組曲第1番 ハ長調>BWV1066、<ヴァイオリン協奏曲 ホ長調>BWV1042、カンタータ<われ満ちたれり>BWV82、<管弦楽組曲第4番ニ長調>BWV1069の4曲(聴いたのは19日)。ちなみにヴァイオリン独奏は庄司紗矢香さん。インタビューを取りましたので、掲載誌の状況が整ったらお知らせします。興味深いお話がうかがえましたので、ぜひご覧ください。
 さて、この日の白眉は<管弦楽組曲第1番>。学生時代から何度となく聴き、スコアを眺めた曲のひとつですが、こんな音がなっていたのか、こういうことをバッハは意図していたんだな、というポイントが新たにいくつも見つかります。こんな凄みの利いた<管組>に出会ったことはありません。
 もちろん、ふだん聴こえない声部を聴こえるようにするのは、二流指揮者でも出来ること。ノリントンが一流なのは、音楽の力動性(例えば和声)、18世紀の語法(たとえばアーティキュレーション)、そしてバッハの意図(たとえば弦楽器による管楽器の模倣)を徹頭徹尾踏まえた上で、われわれの知らない楽曲の姿を提示してくれるからです。
 今回もそうとう「暴走」していますが、前回同様「方向の正しい暴走」に大満足の一夜となりました。


写真:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス