メンデルスゾーン音楽祭(4)


ピノック、再登板

 過日、忘れがたいベートーヴェンの第4交響曲を披露してくれたピノック。12日には、同じくゲヴァントハウス管弦楽団とコンビを組み、メンデルスゾーン交響曲第2番変ロ長調「讃歌」>の演奏です。合唱はゲヴァントハウス合唱団と、学生中心に結成されているヴォーカルコンソート・ライプツィヒが担当しました(ゲヴァントハウス大ホール)。
 <讃歌>とのカップリングは、モーツァルトの<交響曲変ホ長調>KV543、俗に「第39番」と呼ばれる作品です。この演奏が「ベト4」に劣らぬ名演となりました。
 モーツァルト後期のこの交響曲あたりからクラリネットが登場し、楽曲構成上も音色上もバランス上も管楽器パートが強化されます。18世紀後半のオーケストラをつぶさに調べたザスラウの研究によれば、2管編成(管楽器が各種2本ずつの編成)における弦楽器奏者の数は、おおよそ20名に満たない数であったことが分かっています。
 こういった史実に基づいて音響バランスを配すると、20世紀後半までのオーケストラの演奏からは分からなかった「モーツァルトの音楽」が聴こえてきます。「39番」はppからffまでダイナミクスの広い曲ですが、弦楽器寄りにこれを表現するとベッタリとした音響になります。しかし、管楽器寄りにこれを再構成すると、音量(音勢)の違いと音色の違いとが密接に結びつけられていることがよく分かるのです。ピノックとゲヴァントハウス管は、20世紀後半のカラヤンサウンド(レコード販売戦略音響とでも言いましょうか)を抜け出し、「モダンオケによる古楽」へと歩みを進めています。
 サウンドひとつとっても優秀さを指摘し続けられそうですが、演奏解釈(楽譜の読み込みとその表現)も一流でした。第3楽章のノリノリ管楽器や第4楽章の裏打ちなど、その場でアンコールしたかったものばかり。

 さて、そんな「39番」を経て後半はメンデルスゾーンの<讃歌>です。この曲は「交響カンタータ」とも呼ばれる作品で、オーケストラによる器楽楽章が切れ目なく3つ演奏された後、9つの声楽楽章が続く構成を採っています。ここで言う「讃歌」とは詩編第150篇「Alles, was Odem hat, lobe den Herrn」のこと。この句を「ソーラソドドドー, レーファーミミー(移動ド)」の旋律にのせて歌います。もちろんこのメロディーは器楽楽章の冒頭を含め何度も登場します。
 とにかく合唱が要のこの曲ですが、水準に達していなかったように思います。学生中心に結成されているヴォーカルコンソート・ライプツィヒが元凶ですね。音色も音程も不揃いで、メンデルスゾーンお得意の対位法(声部が互いに独立しつつ調和するスタイル)がすべて濁流のように聴こえます。
 一方、オーケストラは優れた演奏を聴かせました。ピノックの力はなかなか偉大です。パワーを持て余し気味のモダン楽器をよく統率して、音量的にも音色的にも声楽陣を殺さないサウンドを心がけました。合唱の出演者を再考した上で、このコンビでメンデルスゾーンのオラトリオ<パウルス>を聴いてみたいと思わされます。
 トレヴァー・ピノックの演奏解釈はもちろんのことですが、ゲヴァントハウス管がこのようにすてきな演奏をするようになったのは目を見張ること。ブロムシュテットの最後の年、2005年からがらりとオーケストラの性格が変わったように思います。技術的にうまくなったこともありますが、何より柔軟になりました。


写真:ライプツィヒ・トーマス教会