ライプツィヒ・バッハ音楽祭2019(10)

 2019年の音楽祭、後半の“隠れテーマ”は「ヴァイマル期のカンタータ」だ。4つの演奏会でこの時期の作品をすべて演奏する。その第2回がとりわけ興味深いコンサートとなった。時は6月22日、場所はライプツィヒを離れ、ザクセン・アンハルト州ヴァイセンフェルスの城館教会。
 バッハが奉職していた頃のヴァイマル城館教会は、ヒンメルスブルク(天空城)と呼ばれるちょっとした高層建築。回廊のある4階建てで、最上階にオルガンを設置していた。このオルガンの前に奏者たちが陣取り、カンタータなどを演奏したことだろう。それはまるで、天から音楽が降り注ぐように感じられたはずだ。残念なことにこの教会、1774年の火災で焼失し今はもうない。
 
ヴァイセンフェルスの城館教会は、このヒンメルスブルクによく似ている。3階建てで天井が高い。床面積は小さいところながら、空間の容積はたっぷりとってある。最上階の南側にはオルガン。構造はヒンメルスブルクそのものだ。ここでヴァイマル期のカンタータを聴くという趣向である。
 演奏はフィリップ・ピエルロ率いるリチェルカーレ・コンソート。平土間からオルガン前の聖歌隊席を見上げても、演奏者の姿は全く見えない。ところが、歌い手を含めその音楽ははっきりと像を結ぶ。詩もよく聴き取れる。なるほど、ヴァイマルの城館もかくや、と思わせる響きだ。
 演奏も実によかった。ピエルロらの通奏低音隊が強力であるのと同じくらい、リーダーのヴァイオリン奏者ゾフィー・ゲントの牽引力が強く、その綱引きと共同作業がいずれも効果絶大。その上、ソプラノのモリソンや、テノールのマンメルの佳唱もあり、引き締まったよいコンサートとなった。
 企画力、地域資源、音楽家の水準が呼応して、後半戦のコンセプトを支える。音楽祭の運営が好循環に入っている証左のひとつだろう。



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