ライプツィヒ・バッハ音楽祭2019(6)

 今年は変わり種の催しが多かった。ルイ・マルシャン対バッハの鍵盤対決を創造的に再現したコンサート(6月16日 於シュタットバート)には、トン・コープマンアンドレアス・シュタイアーが出演した。この演奏会は、1717年の秋にドレスデンで予定されながら、マルシャンの敵前逃亡でお流れになった競い合いを下敷きとする。
 ちなみにマルシャン役をコープマンが、バッハ役をシュタイアーが担当した。オランダ語の「コープマン」は「商人」を意味している。ドイツ語にすると「カウフマン」。フランス語にすると「マルシャン」というわけだ。
 プログラムには舞曲が並ぶ。マルシャンとバッハの舞曲作品を、その曲種ごとに対決させる。最後は「ハッピーエンド」として、バッハの2台のチェンバロのための協奏曲ハ長調 BWV1061a をふたりで弾いて御開きとなった。演奏はマルシャン役の“悪ふざけ”(褒めてる)が楽しく、そのおかげでバッハ役の“真面目さ”が浮き彫りに。豪華な遊びに興ずる一夜。

 6月20日は街中のヴァリエテ劇場(寄席)クプファーザールで、《狩のカンタータ》BWV208と《羊飼いのカンタータ》BWV249aのオペラ風公演。いずれも貴族の誕生日を祝賀する音楽で、いわばお誕生日会の出し物だ。主人公を持ち上げ、楽しく話を進める。合間合間に器楽による《ブランデンブルク協奏曲》第1番の各楽章を挟み込み、“狩”や“羊飼い”の舞台となる田園風景を音楽で調える。
 会場となった寄席の平土間に、歌舞伎の花道のような細長い舞台を設置。舞台の中心に置かれたテーブルの下から登場人物が出てくる。クロスをめくって人が出たり入ったりするわけだ。歌手たちは18世紀風のコスチューム。客席はその舞台を四方から取り囲む。
 演奏は堅実で、18世紀語法を踏まえた器楽奏者(カッチュナー指揮ラオテン・カンパニー・べルリン)に、芸達者な歌手が揃う。場所の雰囲気と演目の性格の平仄があっている上、演奏もなかなかのもので、拍手も大きかった。

 ルドルフ・ルッツは即興演奏を得意とする鍵盤楽器奏者。過去のバッハ音楽祭でもその腕前を披露している。このたびは大学教会で、バッハらのコラール変奏曲にみずからの即興演奏を加えて、ルター派讃美歌の世界と、それに基づくオルガン音楽の世界をともに紹介する(6月22日)。
 興味深いのは、題材となるコラールを聴衆が一緒に歌うこと。ルター派の礼拝を模している。滋味深い原曲のコラール、刺激的なバッハらの作品、それを当意即妙に弾いていくオルガニスト、そこにさらに華を添える即興演奏。こういう演奏会はルッツほどのタレントがいなければ成立しない。往時のバッハもこうであったかと思わされる。一緒に歌うことで会場の一体感も大きく、ルターがコラールを礼拝式の中に制定した意味を、改めて考えさせられた。



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