ライプツィヒ・バッハ音楽祭2019(3)

 ライプツィヒ市は毎年、バッハ演奏に功績のあった人物や団体に、バッハメダルを贈呈している。これまでにレオンハルトガーディナーアーノンクール、コープマン、ヘレヴェッヘブロムシュテット鈴木雅明ベルリン古楽アカデミー、ラインハルト・ゲーベルらが受賞した。
 このたび市は、バス歌手のクラウス・メルテンスに、2019年のメダルを贈ることを決めた。6月16日、その授賞式兼演奏会に行く。場所はライプツィヒ大学礼拝堂パウロ教会。
 「あの日のことは忘れません。家に帰ったらオーバービュルガーマイスター(市長)からの知らせが届いていました。バッハメダルを頂戴できるとのことでした。この受賞はささやかな私の歌い手人生のハイライトです。」
 こう答礼の言葉を述べたメルテンス。40年来の友人であり、今般、バッハアルヒーフの会長に就任したトン・コープマンも祝辞を述べ、大いにその功績をたたえた。
 メルテンスの歌はとても不思議だ。その音楽性の点で非の打ち所がないほどに優れているにもかかわらず、ドイツ語の詩を持つ曲を歌うときには、その歌全体が言語の発話として聴こえてくる。すばらしい歌(音楽)とドイツ語(言葉)とが、完全に平仄を合わせるのだ。「ドイツ語の歌」であることを大きく超えて、「純化したドイツ語」の域に達しているようにさえ思われる。
 こうしたすばらしいバスが、バッハ演奏を支えてきたことは疑う余地のないことだ。近年まれに見るほど妥当なバッハメダル授与式に参加できた。



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