ライプツィヒ・バッハ音楽祭2019(1)

 バッハが後半生を過ごしたドイツ中部ライプツィヒ。この街で6月14日(金)、恒例のバッハ音楽祭が始まった。会場は市内のバッハ史跡など。今年は「宮廷音楽家バッハ」をテーマに、23日までの10日間、約160の公演で大作曲家の仕事を振り返る。

 オープニングの式典とコンサートは例年通り、トーマス教会でトーマス合唱団の歌声に乗せて執り行われた。真面目だが音楽的能力が圧倒的に足りないトーマスカントルの指揮と、一所懸命だが上手とは言えない“天使の歌声”、そして本来は見事な仕事をするはずのフライブルクバロックオーケストラによる弛緩したルーティンワークのおかげで、(これも例年通り)演奏は言及に値しない。ちなみにプログラムは、バッハのオルガンのための《幻想曲》ト長調 BWV572、シャルパンティエの《テ・デウム》ニ長調、バッハの管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068、同じくカンタータ《笑いは我らの口に満ち》BWV110。

 音楽祭の真のスタートは、20時からニコライ教会で行われた演奏会と言ってよい。ヴィオール奏者ジョルディ・サヴァール率いるル・コンセール・ナシオンが、バッハの《音楽の捧げもの》BWV1079、管弦楽組曲第2番ロ短調 BWV1067を披露した。「宮廷音楽家バッハ」のテーマに沿って、ベルリンのプロイセン宮廷とゆかりの深い《音楽の捧げもの》と、同じくプロイセン宮廷との関係が取りざたされる(エマヌエルの就職用、マルティン・ゲック)管弦楽組曲第2番とを並べる、ベルリン・プログラム。
 ベテラン演奏家たちの音楽的基礎体力がずば抜けている。どんなに速い楽章でも旋律に句読点を打って区切りをつけ、まとまりを細かく設定することで、複雑に絡み合う声部を交通整理する。フラウト・トラヴェルソのマルク・アンタイもその息づかいで、弦楽器の弓の上下を思わせる音の力動を笛から引き出す。
 とりわけ興味深いのは、アンサンブルが絶妙なブロークン・コーンソートだったこと。フラウト・トラヴェルソ、第1・第2ヴァイオリン、ヴィオール、チェロ、コントラバスチェンバロヴァイオリン属の土台の上に、笛とヴィオールが乗ってくるので、各パートの音色の構成が絶妙に個性的になる。それが前半の《音楽の捧げもの》では各声部のキャラクターを描き分ける絵筆となったし、後半の管弦楽組曲では本来ヴィオラのパートをヴィオールで演奏するので、その浮遊感のある音色で内声が浮き立ち、より立体的な響きになった。
 職人性の透徹したこうした仕事に接すると、とても清々しい気分になる。その気分のまま、夜中はマルクト広場の野外コンサートへ。美味しく飲んで(炭酸水を)帰宅。



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