ハレ・ヘンデル音楽祭2019(7)

 長身で手足が長く、その立ち居振舞いに素養を感じる。それもそのはずで、アルトのユリア・ベーメは演劇畑の出身。芝居の勉強を終えてから声楽の専門教育を受けた。なぜ転向したかは定かではないが、その声、コントラルトもいけるのではないかと思わせるふくよかで、それでいて芯のある声を聴いた音楽家が、スカウトしたのではないか、と勝手に想像している。そう思わせるほど、立派な声帯の持ち主。
 このたびは「第2の女性」と題した演奏会で、オペラの脇を固める役柄にスポットライトをあてる(6月8日 於レオポルディーナ)。プログラムに並ぶ名前はヘンデル、ヴィヴァルディ、ハッセ。一騎当千のオペラ作家ばかりだ。
 声は先述の通りとても立派。コントラルトの名歌手ナタリー・シュトゥッツマンと並ぶ恰幅の良い声だが、シュトゥッツマンがきわめて内向的な声色であるのに対し、ベーメはとても外向的で曇りのないを発声をする。だから、とてもよく言葉が聴こえる。これが個性の光るところ。音色の幅はそれほど広くない。息の細さ太さ、それを太いほうへ大胆に、細いほうへ精緻にコントロールし、そこに息の勢いの差異を手段として加えて表現の基礎とする。
 さらに先述の通り、演劇で培った「身振りのアート」が歌の味方をする。総合的な表現力が非常に高い逸材で、このアルトにライプツィヒ・バッハ音楽祭ですぐに再会できるのは、とても嬉しいことだ。



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