特集 カンブルラン(過去の批評 その他)

読売日本交響楽団第9代常任指揮者 シルヴァン・カンブルランの任期最後の演奏会を聴いた(2019年3月24日〔日〕)。思えば、雑誌にいくたびか批評を寄稿したのをはじめ、さまざまな機会をとらえてカンブルランの演奏を文章にした。つねに幸せな試みだった。その記録。
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【批評】

読売日本交響楽団 第507回定期演奏会◇2011年9月12日(月) サントリーホール

読売日本交響楽団 第514回定期演奏会◇2012年4月16日(月)サントリーホール

読売日本交響楽団 第519回定期演奏会◇2012年10月27日(土) サントリーホール

読売日本交響楽団 第555回名曲シリーズ◇2012年12月19日(水)サントリーホール

読売日本交響楽団 第153回マチネーシリーズ◇2013年3月16日(土)東京芸術劇場

読売日本交響楽団 第158回マチネーシリーズ◇2013年9月8日(日)東京芸術劇場

読売日本交響楽団 第536回定期演奏会◇2014年4月17日(木)サントリーホール

読売日本交響楽団 第543回定期演奏会◇2014年12月4日(木)サントリーホール

読売日本交響楽団 第606回名曲シリーズ◇2017年11月26日(日)サントリーホール

読売日本交響楽団 第608回名曲シリーズ◇2018年1月19日(金)サントリーホール

読売日本交響楽団 第581回定期演奏会◇2018年9月28日(金)サントリーホール


【推薦文】

読売日本交響楽団 第533回定期演奏会◇2014年1月14日(火)サントリーホール

読売日本交響楽団 第559回定期演奏会◇2016年6月24日(金)サントリーホール

読売日本交響楽団 第615回名曲シリーズ◇2018年9月21日(金)サントリーホール〔PDF〕


【ブログ未掲載分】

読売日本交響楽団 第559回定期演奏会◇2016年6月24日(金)サントリーホール

 カンブルランの指揮でベルリオーズの序曲「宗教裁判官」、デュティユーのチェロ協奏曲「遥かなる遠い世界」、ブルックナー交響曲第3番「ワーグナー」を聴く。
 「宗教裁判官」で指揮者は、ヴィブラートの有無を音色の表現に、音色の表現を和声の緊張と緩和に結びつける。細部の表現をより大きな作品彫琢へとつなげる手腕はデュティユーでも。ケラスの弾く独奏部と管弦楽とが、筍と竹林のような関係を結ぶ。ある時は顔を出し、ある時は竹林に紛れる筍。両者の根は地下で分かち難くつながる。
 「ワーグナー」はさまざまな区分、たとえば和声進行や転調、形式の推移を、オルガンの明確な音色変化のように表現したらどうなるか、という長大な実験。カンブルランの場合、区分の変わり目のシェイプに主張がある。耳を引くのは柳腰を思わせる流線型。くびれは深いが変化は滑らかだ。少し「鈍い」ところのある作品だが、カンブルランはその「鈍さ」を「スマート」に示した。好演。(モーストリー・クラシック 2016年9月号)


読売日本交響楽団 第611回名曲シリーズ◇2018年4月13日(金)サントリーホール

 クラリネット独奏にメイエを迎え、カンブルランと読響がひと味違った名曲プログラム。
 まずはチャイコフスキーの「くるみ割り人形」から4曲。作曲家はこの作品に、響きの実験室の役割を与えた。そんな実験を指揮者と管弦楽が再現していく。続くモーツァルトの「協奏曲」とドビュッシーの「第1狂詩曲」とはいずれも、クラリネットのための音楽。どちらでもメイエは、仏語の発話リズム風にスイングする。前者ではそれがよいスパイスに、後者ではその発話リズムと音楽との平仄がぴたりと合う。
 ストラヴィンスキーの「春の祭典」では、響きとリズムとが高度に融合した。響きの波間にリズムは埋もれないし、リズムの前進に響きは置いていかれない。これは速度制御の妙。サウンド過多になりそうなところは遅くしてリズムを丁寧に。リズム優勢になりそうなところは速くして響きの渦を。いわば逆張りの美学。これにより、この作品の楕円(複焦点)構造がはっきりと浮かび上がった。(モーストリー・クラシック 2018年7月号)



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