R・シュトラウス《ドン・ファン》ほか◇メルクル指揮 トーンキュンストラー管

◇R・シュトラウス:《ドン・ファン》《死と変容》他◇準・メルクル(指揮), トーンキュンストラー管弦楽団◇AVCL25971

準・メルクルは、一見、楽団の弱点とも思えることがらを、作品の彫琢に不可欠な道具として利用するのがうまい。鋏は使いようである。この録音でも、その手腕が遺憾なく発揮されている。シュトラウス作品を正攻法、たとえば精緻な音色操作で描き切るのは、楽団に相当の手練がないと難しい。メルクルは神経を使う音色操作は最低限にとどめ、この楽団のどこか雑な印象の響きを、語り口の変化へと変身させ、表現に結びつけた。それにより描写的な場面も、舞曲のような古典的な楽章も、あくまで抽象的な音運びも、擬似的な発話行為となる。なるほど楽団も指揮者も作曲家も、同じ言語をその根底に持つ。共通理解の土台が固い演奏につながった。


初出:音楽現代 2018年10月号



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