17・18世紀のドイツ語圏音楽史(第1回 / 全4回)

【序】

 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)の「本棚」を探る研究がある。キルステン・バイスヴェンガー博士の『J・S・バッハの所蔵楽譜文庫』(1992年)だ。論文には「バッハが所有していた他者の作品の目録」が収められている。それを眺めてみると、当時のドイツの音楽家がどの程度、時間や空間の広がりを意識していたかがよく分かる。そして、その広がりからは、ドイツ・バロック音楽史を特徴付けるさまざまな要素が浮かび上がってくる。
 中部ドイツ・テューリンゲンからザクセンにかけてが、バッハの拠点だった。これは当時のドイツ語圏をゆるやかに結びつけていた神聖ローマ帝国の、ちょうどヘソの位置にあたる。「本棚」の楽譜の出どころを探ると、その神聖ローマ帝国の全域をカバーしていることがわかる。たとえば、近場ではザクセンの都ドレスデン、北は帝国自由都市ハンブルク、そして南東の端に位置する帝都ウィーン。この3都市はドイツ語圏の音楽史にとって、とりわけ重要な意味を持つ。「本棚」にはイタリアとフランスの作曲家の楽譜も多く並んでいた。両国の音楽を学び、それを自国の文脈に溶かし込んでくことは当時、ドイツ語圏の音楽家にとって大切なことだった。


〔CD〕
Deutsche Harmonia Mundi 50th Anniversary Box



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