ライプツィヒ・バッハ音楽祭2018(1)

 ドイツ中部ライプツィヒで6月、恒例のバッハ音楽祭が開催された。会場は市内のバッハ史跡など。今年は「サイクル」をテーマに、6月8日から17日までの10日間、160を超える公演で大作曲家の仕事を振り返る。
 今年の音楽祭は「カンタータ・リング」に始まり「カンタータ・リング」に終わったと言っても過言ではない。「カンタータ・リング」とは今年のバッハ音楽祭の大型企画。主催者の厳選したバッハのカンタータ33曲を、3日10公演でリレーする“駅伝コンサート”だ。ガーディナー、コープマン、鈴木、ラーデマンらが、それぞれの楽団とともに演奏に携わる。
 各演奏家とも教会暦にしたがって順番に数曲ずつカンタータを披露していく。数曲のカンタータのあいだには、16世紀や17世紀の教会音楽を挟み込む。これも当然、教会暦やカンタータの内容に呼応する。音楽だけでなく教会暦に沿った聖書の箇所の朗読も行われた。
 企画全体のコンセプト、演目の組み立ての方法論、個別の演奏の充実度、聴衆を巻き込む会場の一体感、そして発券状況。どれをとっても大成功としかいいようのないプロジェクトとなった。

 さて、オープニングコンサートにもいちおう触れておく(6月8日 於トーマス教会)。トーマス・オルガニスト、トーマス・カントール、トーマス合唱団とゲヴァントハウス管弦楽団の出演はいつも通り。無資格でトーマスカントールになったゴットホルト・シュヴァルツの音楽は、例によってコメントに値しない。
 ただし、プログラムはとても優れていた(考えたのはインテンダントのミヒャエル・マウル)。シャイン、シュッツ、バッハ、メンデルスゾーンと同地にゆかりのある音楽家の作品を並べる。250年ほどの時間を超えて “ライプツィヒの音楽” を提示する試み。シャインのテ・デウムで始まり、シャインとシュッツの作品で一時「メメントモリ」、バッハの短ミサBWV233を経て、メンデルスゾーンの《Verleih uns Frieden gnaediglich》で締める。
 音楽様式の対比と共通点、詩のメッセージの一貫性、投影されるライプツィヒの歴史。とりわけ、冷戦末期に反体制運動を主導したこの街にとって、重要な言葉であり思想である「Frieden」を“柔らかく”強調するところがすばらしい。その後の演奏会のプログラムにも、こうした「すばらしさ」があろうことを強く予感させるもの。その予感は的中することとなる。


写真:ライプツィヒ・トーマス教会






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