17・18世紀音楽の演奏小史(第3回 / 全3回)

 (承前)さいごのひとつは、知られざる古い奏法が、形骸化した演奏に風穴を開けること。楽曲が発掘され、当時の楽器が復元されると、それに見合った演奏法と、その演奏法を支える読譜法とが追求された。古楽器の使用と軌を一にしてこれらの研究が進み、やがてその読譜法と奏法とが古楽器から独立して、モダン演奏の世界でも実践的な演奏哲学として用いられるようになる。古楽演奏アーノンクールは1982年に『古楽とは何か ― 言語としての音楽』、1984年に『音楽は対話である』を著し、それまでの音楽活動で得た知見を披瀝した。1970年代からアーノンクールは、モダン楽器のオーケストラにもたびたび客演し、指揮するようになる。その現場でも、2つの著作で明らかにされた演奏法や演奏哲学は生かされた。その結果、それまでの当該オーケストラからは考えられないようなサウンドや解釈が生じることとなった。
 オランダのオーケストラ、コンバッティメント・コンソート・アムステルダムの例も面白い。ドイツ中部ライプツィヒで2010年6月、この楽団の演奏を聴いた。バッハ父子やグラウプナーら18世紀の作品がプログラムに並ぶ。違和感を感じたのは調弦のとき。モダン楽器を手にした音楽家たちを見て、この団体は現代楽器の楽団だったかと疑問符が頭に浮かぶ。かつて聴いた録音は古楽器の演奏ではなかったか。曲が始まってすぐ、疑問符は感嘆符に変わった。古楽の音がするのだ。彼らが手にしてるのは紛う方なき現代楽器。聴こえてくるのは古楽器の音運びだ。バロック音楽にとって最も重要なのは、読譜法と演奏法であると確信した瞬間だった。
 こうした3つの流れを受けて現在、レパートリーの点では地域(たとえば東欧や南米)とジャンル(たとえばバロックオペラ)の拡大、楽器の点ではさらなる復元(たとえば肩掛けチェロ)、読譜法と演奏法の点ではいっそうの学究と想像力の増進(たとえば即興演奏)が進む。いまもってバロック音楽の演奏は、つねに新しさを目指して前進している。(了)


【CD】
アーノンクール
コンバッティメント・コンソート・アムステルダム
南米のバロック音楽
バロックオペラ
肩掛けチェロ


初出:モーストリー・クラシック 2018年2月号





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