ボン・ベートーヴェン音楽祭2017

 ベートーヴェンは1770年、ドイツ西部のボンで産声をあげた。そのことにちなみ同地では毎年、この大作曲家の名を冠した音楽祭が催されている。今年のベートーヴェン音楽祭は9月8日から10月1日までの3週間あまり、市内のベートーヴェン史跡やホールを会場に、54の公演で作曲家の業績をたたえた。交響曲や協奏曲など大規模な管弦楽のコンサートはもちろん、いくつかのカルテットが分担してベートーヴェン弦楽四重奏曲を紹介するシリーズや、ジャズのライブ、野外演奏会までプログラムは幅広い。
 とりわけ最後の10日間に注目の公演が並んだ。9月23日にはイザベレ・ファウストがオラモ指揮のBBC交響楽団とベルクの協奏曲で共演、27日と29日にはオランダのフォルテピアノ奏者、ロナルド・ブラウティハムがベートーヴェンソナタなどを演奏した。28日にはロシアの若手イゴール・レヴィットが現代ピアノでバッハなどを披露。29日にはクリスティアン・ベズイデンホウトが、現代ピアノを古典奏法で弾いた。
 なかでも、ブラウティハムとベズイデンホウトとの対比が興味深い。ブラウティハムは、ボン郊外に建つ18世紀の瀟洒な館でリサイタルをおこなった。ベートーヴェンの「幻想曲風ソナタ」作品27-1、「月光」同27-2を中心としたプログラムで、楽器は19世紀初期のグラーフを写したもの。演奏法は19世紀のスタイルを採る。聴こえてきたのは豊かなドイツ語のおしゃべりだ。句読点の打ち方を工夫し、多彩な子音母音を総動員することで、登場人物たちの対話を描く。
 ベズイデンホウトは現代的な会議場の大ホールで、カエイエルス指揮のル・コンセール・オランピークと共演、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」を弾いた。ピアノも管弦楽も現代楽器だが、どちらも古典奏法を採用することで作曲当時のみずみずしさを再現する。会場が大きいだけに、大音量のモダン楽器で古典奏法という選択は当を得たもの。ピアノと管弦楽の各パートとで、同じ旋律のフレージングを細かいところまで共有するので、対話や受け渡しが実に自然に響く。ブラウティハムもベズイデンホウトも、21世紀に19世紀初めの音楽を響かせる意味を正面から見据える。その結果、こうした対比と共通点とを生み出すことへとつながった。
 2018年の音楽祭は8月31日から9月23日まで。プログラムの詳細は来春、発表される予定だ。


【CD】
「ベートーヴェン ピアノソナタ全集」ブラウティハム(フォルテピアノ)


初出:モーストリー・クラシック 2018年1月号





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