ハインツ・ホリガー《スカルダネッリ・ツィクルス》

2017年5月25日(木)▼東京オペラシティ コンサートホール▼コンポージアム2017 ハインツ・ホリガーの音楽 ー《スカルダネッリ・ツィクルス》

 ホリガーの「スカルダネッリ・ツィクルス」(1991年完成)の日本初演。スカルダネッリとは19世紀ドイツの詩人ヘルダーリンの筆名。この詩人の作品をもとにホリガーは、合唱のための「四季」全3集、器楽のための「スカルダネッリ練習曲集」全11曲、フルートのための「テイル」を書き、2014年にはこれら全体の演奏順序を定め決定稿とした。演奏はフルートのレングリ、ラトヴィア放送合唱団、アンサンブル・ノマド。指揮は作曲者自身。
 たとえば「四季」第2集の「夏」。3連の詩の背景が丘・道・園と微視的になるにつれて、3回繰り返すカノンの音度が半音・四分音・八分音と狭くなる。こうして詩世界と音楽とは呼応する。しかし聴き手は、詩にも音楽にも夏を感じることはない。それがこの作品の芯だ。
 音楽が詩世界に寄り添うほど、その詩世界と聴き手との断絶は深まる。他人を寄せ付けない詩本来の性質を、音楽が色濃く映すからだ。ここには2つの奇跡が生じている。ひとつは、そんな詩の性質にもかかわらずホリガー自身は、その詩世界に近づけたこと。もうひとつは、その接近を通して、詩と他者との断絶をありありと表現したこと。自分自身は詩世界に寄り添いつつ、他者には詩との断絶を感じさせるというのは本来、その詩の作者にしかできない。この詩人と作曲家との二重写しに気づかせてくれた点に、日本初演の意義は凝縮している。演奏者に拍手。

【CD】
ハインツ・ホリガー《スカルダネッリ・ツィクルス》


初出:モーストリー・クラシック 2017年8月号





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