東京交響楽団 第684回定期演奏会

 秋山和慶の指揮で東響が、「フランスのエクリチュール」のさまざまな姿を紹介する。
 メシアンの交響的瞑想「忘れられた捧げ物」は、作曲家22歳のときの若書きだが、リズムと管弦楽法とはすでに精緻。こうした総譜を前にすると、音符を正確に音にするのに長けた秋山と東響とは力を発揮する。
 一方、フローラン・シュミットのバレエ音楽サロメの悲劇」は、楽譜の空白部分を彫琢してはじめて体をなす作品。このコンビのアプローチでは音楽が空洞化する。
 この日の白眉は両曲に挟まれた「ピアノ協奏曲」。仏で作曲を修めた矢代秋雄の作品だ。深い次元まで書かれた総譜が、楽譜再生能力の高い管弦楽と呼応する。その上で独奏の小菅優が、子音の利いた発音で作品世界を描き出していく。矢代は短長や長短短といった特徴的な韻律を、曲全体を束ねるかすがいとして用いた。滑舌の良いピアノがそのかすがいを、打つべきところに打ち込む。この協奏曲の演奏史はこうして新局面に入った。〔2017年1月14日(土)サントリーホール

初出:モーストリー・クラシック 2017年4月号


【CD】
矢代秋雄▼ピアノ協奏曲▼森正指揮, 中村紘子独奏, NHK交響楽団





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